動物の病気

エプリス(エプーリス、歯肉腫)

>>>犬のエプリス(エプーリス)とは?

エプリスとは歯肉部に生じる充実性で平滑な歯肉と同色の色調を持つ腫瘤です。外観上は歯肉を内側から盛り上げるように成長する、いくつかの種類の「シコリ」の総称となっています。犬ではよくみられ、口腔内腫瘍のおおよそ3割を占めるといわれています。
エプリスには歯肉炎症などの刺激が続くことにより発生する非腫瘍性炎症性エプリス良性腫瘍による腫瘍性エプリスがあります。

エプリスは以前はその形態上の特徴によって、線維性エプリス骨性エプリス棘細胞性エプリスに分類されておりました。線維または骨性エプリス良性腫瘤を形成するものですが、それとは対照的に棘細胞性エプリスは周囲の組織への強い浸潤性(しんじゅんせい)を持ち、注意を要する腫瘍としての特徴を持っています。

つまり、いわゆる「エプリスのようなもの」が炎症性から良性腫瘍悪性腫瘍に近い振る舞いをするものまで存在し、エプリスとはなにか?ということに関して分類上の混乱をきたしておりました。
このため、現在の分類では、従来はエプリスとされていた注意を要する棘細胞性エプリス棘細胞腫性エナメル上皮腫という別な腫瘍に分類されるに至りました。(他にも細かなアップデートかあるのですが本コラムでは割愛します)

まず、エプリスとは何かという説明として下の2枚の写真をご覧ください。写真は上顎犬歯のすぐ後ろから発生した良性骨性エプリス骨形成性エプリス)ですが、前後の隣接する歯まで覆い隠すほどの大きさです。(右が拡大です)

エプリス.JPG エプリス2.jpg

 

>>>エプリスの症状は?

本来の意味でのエプリス、いわゆる線維性及び骨性エプリスでは同時に歯垢の蓄積や歯周病などの口内の環境悪化をしばしば伴っています。また、その成長が遅い傾向がありますが、一方で棘細胞性エプリス棘細胞腫性エナメル上皮腫)はより早い成長がみられる傾向があります。

ほとんどのエプリス症状を伴わない状態で飼い主さんの観察や動物病院での身体検査により発見されます。腫瘤が小さいうちは症状はなく、他の口腔内にできる腫瘍と同様に大きさが大きくなるに従って流涎(りゅうぜん、よだれ)が増え、口臭が増してきたり、時に咀嚼(そしゃく)や嚥下(えんげ、飲み込み)に問題を生じることもあります。
特に棘細胞腫性エナメル上皮腫棘細胞性エプリス)などの腫瘍は切除しても再発を繰り返し、次第に周囲の組織腫瘍浸潤によって破壊してしまい、進行したものでは顎骨を変形させてまうほどです。

 

>>>エプリスの診断は?

エプリスの分類上の分かり難さは冒頭に書いた通りですが、診断の上でも一見して同じような「エプリスのようなもの」が病理検査によってさまざまな診断に分かれます。その例を下の2枚の写真でお示しいたします。冒頭の良性の骨性エプリスの写真も含めていずれも一見して似たような腫瘤に見えます。

DSC_9271.JPG DSC_9170.JPG

左の写真は歯肉過形成エプリスと似ていますがエプリスという診断上の要件を満たさない非腫瘍性良性病変です。右の写真は棘細胞腫性エナメル上皮腫棘細胞性エプリス)でした。この腫瘍は周囲への浸潤性が強く悪性腫瘍のような振る舞いを見せる腫瘍です。このように歯肉腫瘤は見た目ではその診断ができませんので病理検査を必ず行う必要があります。

エプリスと判断されるような歯肉腫瘤、特に歯垢歯石の沈着や歯周病に伴ってよく見られるようなものは、口腔内環境の悪化に伴うエプリス(=良性病変)とみなされやすく、歯周病治療スケーリング歯石取り)と同時に局所摘出され、そのまま病理検査を行わずに済まされているケースが多々あると考えられます。
エプリスの分類から外れた棘細胞性エナメル上皮腫はもちろんですが、良性と判断されるエプリスにも再発を繰り返して後に問題を起こす歯肉腫瘍となるものが一定数存在します。

 

>>>エプリスの治療は?

エプリス外科的摘出しなければなりませんが、良性病変であるはずの線維性エプリスや骨性エプリス局所摘出した場合でも、おおよそ一割弱の確率で再発するといわれております。
特に、旧分類で棘細胞性エプリスとされた棘細胞腫性エナメル上皮腫(右上写真)は転移こそ起こさない良性腫瘍ですが、周囲の組織浸潤増殖するために局所摘出では高頻度再発を繰り返し、根治させることがほぼできません。つまり、完全な摘出のためには下顎骨上顎骨ごと摘出する大掛かりな手術を行う必要があるということです。

一般的に正しく摘出された境界の明瞭な良性腫瘍再発をあまり起こさないものです。エプリス再発しやすい背景には腫瘍歯槽骨に付着する歯肉の深部、歯周靱帯から発生してくるためと、腫瘤の下がすぐに歯槽骨という構造もあってサージカルマージン(切除する際の安全域)を取るのが難しく、歯肉部のみの局所切除を行った場合には不充分な切除となり易いためです。
エプリス局所摘出した場合には定期的に再発のチェックを行うことと、飼い主さんにも観察を促す必要があります。また、もし再発してしまった場合には腫瘍病理学的な特徴が前回と一致しないこともあるため、再発したエプリスはその都度注意すべき腫瘍として、適切なリスク評価を行う必要があります。

---------------------------------------------

文責:あいむ動物病院西船橋 病院長 井田 龍

子宮水腫・子宮粘液症

>>>犬の子宮水腫・子宮粘液症とは?

子宮水腫(水症)、子宮粘液症とはそれぞれ無菌性のさらさらした体液のような漿液やより粘度の高い液体が溜まって子宮が拡張した状態を表します。子宮水腫子宮粘液症の違いは貯留液に含まれる粘りの元となるムチンという物質の量の違い程度であって、ほぼ同じものであろうと考えられています。
---------------------------------------------
ムチンとは糖タンパクと呼ばれる蛋白質の一種で、あらゆる粘膜から分泌される粘液の主成分です。ムチンを含む粘液粘膜を乾燥や摩擦から守り、病原体感染を防ぐなど、粘膜の機能を維持する上で重要な役割を持っています。
---------------------------------------------
こういった無害性の液体の貯留はしばしばみられ、不妊手術を行っていない雌犬の一割超で発生するようです。また、中高齢以降の子供を出産したことのない雌の小型犬での発生が多いとされています。さらさらした漿液を貯留する子宮水腫がほとんどを占め、ムチンの多い子宮粘液症はあまりみられません。

宮水腫・子宮粘液症と似たような疾患で、同じように子宮内貯留液)を蓄積する致死的疾患として子宮蓄膿症があります。子宮蓄膿症黄体期での黄体ホルモンプロジェステロン)の影響によって生じますが、子宮水腫・子宮粘液症黄体期を含めたすべての発情ステージで生じるため、発症要因としてのプロジェステロンをはじめとする性ホルモンの関わりは不明です。

ー> 犬の子宮蓄膿症はこちら

 

>>>子宮水腫・子宮粘液症の症状は?

子宮水腫の犬のほとんどは無症状に経過します。子宮内に大量の液体が溜まり、腹部が膨満することで生じる外見の変化、運動性の低下や腹部膨満に伴う不快感などの諸症状がみられることがありますが、この病気のほとんどは健康診断や別の病気を疑って偶然に超音波検査で発見されます。また、健康な犬での不妊手術卵巣子宮摘出)の際に子宮水腫が発見されることもあります。

 

>>>子宮水腫・子宮粘液症の診断は?

なんらかの病歴や症状がなく、超音波検査により、子宮内無エコー性貯留液による子宮の拡張があればまず、子宮水腫を疑います。
ところで、子宮水腫はこの疾患を迅速かつ確実に診断するという意味においての重要性はあまり高くありません。この病気を確実に診断する重要性は超音波検査レントゲン検査などで区別の難しい、より緊急度が高く致死的子宮蓄膿症を確実に診断ないしは除外するというところにあります。

つまり、子宮水腫は、はっきりとした病歴症状がなく、レントゲン検査超音波検査で偶然みつかった子宮蓄膿症との区別が難しいことがあるということです。
こうした場合には血液検査を実施して白血球数と同時に白血球好中球リンパ球好酸球単球などが含まれます)を検査して好中球に強い炎症の証拠があるかどうかを評価します。また、CRP等の炎症マーカーの測定を行い、炎症性所見の有無から子宮蓄膿症かどうかを精査する必要があります。通常、子宮水腫では血液検査においてなんらかの異常を起こすことはありません。

あまり実施されることはありませんが、判断が難しい場合にはさらに血液中黄体ホルモンプロジェステロン濃度の測定を行い、その値が低ければ子宮水腫、高値であれば子宮蓄膿症の可能性が高まります。ただし、黄体期には子宮水腫子宮蓄膿症どちらも発生する可能性があり、それらを区別することはできませんので、その他の検査と合わせて総合的に判断いたします。

 

>>>子宮水腫・子宮粘液症の治療は?

子宮水腫・子宮粘液症治療に際して有効な薬物治療はありません。子宮内にあまり液体が溜まっていない場合にはこれといった症状もなく、子宮蓄膿症のように短期間に致死的な経過をとる危険性も低いため、定期的な超音波検査を行い経過観察を行うこともあります。
子宮水腫卵巣子宮摘出術によって治癒いたしますので、将来的に子宮内液体貯留が進行してしまう前に、また、その他の新たな子宮疾患の発生を予防するために外科的治療が推奨されます。

----------------------------------------------

文責:あいむ動物病院西船橋 獣医師 井田 龍

二次性上皮小体機能亢進症

>>>犬の上皮小体(副甲状腺)機能亢進症とは?

上皮小体副甲状腺とも呼ばれ、甲状腺に付着するように左右にある3ミリに満たない非常に小さな内分泌を担う組織です。上皮小体からは上皮小体ホルモンパラソルモンPTH)という、生き物が生存しつづける上で必須のホルモンが分泌されています。

このパラソルモンPTH)はビタミンDと共に血液中のカルシウム濃度リンの濃度をコントロールする重要な役割を担っています。
パラソルモンカルシウムからの吸収とからの血液中への放出を促進します。また、腎臓からのカルシウム排泄沈着を抑制して、血液中カルシウムを上昇させる働きがあります。
このパラソルモン分泌がさまざまな理由で過剰になった結果生じる病気を上皮小体機能亢進症、不足することによって生じる病気を上皮小体機能低下症といいます。

ー>上皮小体機能低下症はこちら

パラソルモンが過剰となる上皮小体機能亢進症には上皮小体そのものに問題のある原発性上皮小体機能亢進症と、カルシウム代謝の破綻を原因として二次性に起こる、栄養性腎性上皮小体機能亢進症があります。
上皮小体機能亢進症原発性二次性腎性栄養性によっても病気が発生するしくみとその症状診断・治療の進め方が全く異なるため、異なる病気ととらえた方がよいかもしれません。当コラムでは原発性二次性上皮小体機能亢進症を分けて説明しています。
上皮小体機能亢進症の3つのカテゴリーの説明は下の段落に示しました。

----------------------------------------------

〇原発性上皮小体機能亢進症
の原因は、高齢犬でまれに生じる上皮小体そのものの腫瘍性増殖などにより、パラソルモン分泌が過剰になり生じるもので、持続的な高カルシウムを特徴とします。

ー>原発性上皮小体機能亢進症はこちら

〇二次性・栄養性上皮小体機能亢進症
カルシウムが少なくリンの多い、またはビタミンD欠乏を起こすような不適切な食餌や活性型ビタミンDの不足にって持続的な低カルシウムによってパラソルモンの過剰分泌が引き起こされたものです。

ビタミンDは、カルシウムリン代謝を調節する上でホルモンのような役割を持つ物質です。ビタミンDは植物由来のビタミンD2エルゴカルシフェロール)と動物由来のビタミンD3コレカルシフェロール)からなる物質の総称です。
食物から摂取されたり、体内でつくられたビタミンD肝臓腎臓代謝を受けて活性化してその機能を発揮します。活性型ビタミンDカルシウムリンからの吸収を促進して尿への排泄を減らします。また、に含まれるカルシウム血液中に放出させてカルシウム濃度を高める働きがあります。
人間では「日光浴不足」がビタミンDの不足を起こすことが有名ですが、それはビタミンDは食物から吸収されるもの以外に、紫外線によって皮膚でつくられる主要な経路を持つためです。犬猫では日光浴がビタミンDをつくる仕組みに占める割合はわずかで、食物からほぼ全てのビタミンDを補給する必要があります。

〇二次性・腎性上皮小体機能亢進症
慢性腎臓病に続いて生じる上皮小体機能亢進症です。
腎機能不全の進行に伴って、リン排泄がうまくできずに体にはリンが蓄積してきます。リンカルシウムにはシーソーのような調節関係があり、高リンの持続によって体には低カルシウム方向への圧力がかかります。また、腎機能不全によって腎臓でのカルシウム再吸収がうまくできずに尿中に失われ続けることによっても同様なことが生じます。

こうした低カルシウムへの圧力を打ち消すためにパラソルモンが過剰に分泌され続けることで生じるのが腎性上皮小体機能亢進症です。栄養的な問題や腎不全によって二次性に起こる上皮小体機能亢進症では原発性のものとは異なり、高カルシウム血症は見られません。カルシウムの値は正常か、むしろ低下します。

 

>>>二次性上皮小体機能亢進症の症状は?

病気が長期間に及ぶと体のカルシウム量の需要を補うために、骨が壊れてカルシウムが脱出してしまい骨量から骨が弱くなり、病的骨折が生じやすくなります。

二次性腎性上皮小体機能亢進症の場合にみられる症状はその大部分が原因となっている腎臓病によるものです。腎機能不全にる水分保持機能の喪失、尿毒症性物質の蓄積、カルシウムリンなど塩類代謝異常腎性貧血などによってさまざまな慢性消耗性の変化が起こります。脱水多飲多尿削痩元気食欲低下消化器症状など多岐にわたります。

 

>>>二次性上皮小体機能亢進症の診断は?

犬では原発性上皮小体機能亢進症が稀な上皮小体腫瘍を原因とすること、二次性栄養性上皮小体機能亢進症も通常の飼育状態での発生は稀なものですから、上皮小体機能亢進症は実質的に、慢性腎臓病によって二次性に発生する腎性上皮小体機能亢進症によるものといっていいでしょう。
つまり、慢性腎臓病診断された場合にはこの二次性腎性上皮小体機能亢進症を念頭に置く必要があります。

腎性上皮小体機能亢進症はその原因となっている慢性腎臓病診断されており、カルシウム濃度の異常やそれに伴うパラソルモン高値診断されます。カルシウムリンや可能であればパラソルモン、マグネシウムの測定を定期的に行い、カルシウム・リン代謝のモニタリングをいたします。
二次性腎性栄養性上皮小体機能亢進症ではリンは上昇しやすく、カルシウム値上皮小体そのものの異常で起こる原発性上皮小体機能亢進症のように高カルシウム血症リンは低下)ではなく、正常かむしろ低下します。

 

>>>二次性上皮小体機能亢進症の治療は?

腎性上皮小体機能亢進症治療は元になっている慢性腎臓病慢性腎不全)に対する輸液による脱水電解質の改善、摂取カロリーの維持などの対症療法をはじめとして消化器症状腎性貧血などのさまざまな合併症の管理を行い、まずは全身的な症状の改善を図ります。

高リン血症の有無によらず食事中のリン摂取制限リン吸着剤投与を行い、カルシウム・リン代謝の正常化を図ります。また、低カルシウムであればカルシウム剤活性型ビタミンD3製剤カルシトリオール等)も合わせて実施して、カルシウム代謝の正常化を図ります。

二次性腎性上皮小体機能亢進症慢性腎臓病慢性腎不全)の管理の上でもとても重要な疾患です。過剰なパラソルモン腎臓への悪影響を生じ、慢性腎臓病でみられる症状をさらに悪化させてしまうという悪循環を引き起こします。
つまり、腎性上皮小体機能亢進症治療を行うことによってパラソルモン分泌を抑制できれば慢性腎臓病症状の改善、さらには腎臓病そものの進行を抑えることが可能です。

栄養性上皮小体亢進症では、原因となっている食物の中止と、カルシウムリンビタミンDをバランスよく摂取できる適切なペットフードへの切り替えを行います。

----------------------------------------------

文責:あいむ動物病院西船橋 病院長 井田 龍

 

上皮小体機能低下症

>>>上皮小体(副甲状腺)機能低下症とは?

上皮小体副甲状腺とも呼ばれ、甲状腺に付着するように左右にある3ミリに満たない非常に小さな内分泌を担う臓器です。上皮小体からは上皮小体ホルモンパラソルモンPTH)という、生き物が生存しつづける上で必須のホルモンが分泌されています。

このパラソルモンPTH)はビタミンDと共に血液中のカルシウムリンの濃度をコントロールする重要な役割を担っています。
パラソルモンカルシウムからの吸収とからの血液中への放出を促進します。また、腎臓からのカルシウム排泄沈着を抑制して、血液中カルシウムを上昇させる働きがあります。
このパラソルモン分泌が、何らかの理由で不足することによって生じる病気を上皮小体機能低下症、過剰になった結果生じるものを上皮小体機能亢進症といいます。

ー> 上皮小体機能亢進症(原発性)はこちら

パラソルモンが不足する上皮小体機能低下症上皮小体形成不全であったり、原因の特定できない特発性上皮小体萎縮を原因として若齢~中年齢で発生します。
上皮小体甲状腺に付着する小さな組織のため、甲状腺腫瘤や周囲の圧迫性の病変によって破壊されたり、甲状腺摘出によって治療したような場合、上皮小体甲状腺と一緒に除去されたり、外傷などで損傷を受けるなどで発症することもあります。
上皮小体機能低下症の特徴は重度の低カルシウム血症が引き起こす様々な症状としてみられます。

 

>>>上皮小体機能低下症の症状は?

上皮小体機能低下症によって低カルシウムとなった場合には発熱、パンティング食欲不振振戦(ふるえ)、無気力虚弱や「硬直した歩行やふらつき」などによる運動失調不穏状態過敏症攻撃性、「顔をこする、押し付ける」などの神経骨格筋をはじめとする、さまざまな症状が現れます。
さらに悪化すると痙攣(けいれん)や意識消失から死に至る可能性があります。また、白内障上皮小体機能低下症の約半数で見られます。

 

>>>上皮小体機能低下症の診断は?

低カルシウム血症(7mg/dL以下)と高リン血症(6mg/dL以上)が特徴的で、低カルシウム血症であるにもかかわらずパラソルモン値が低値~正常値であれば上皮小体機能低下症診断できます。
神経筋肉に影響が及ぶような重度の低カルシウム上皮小体機能低下症の他に病気としては産褥テタニー授乳期に大量に消費されることで生じる低カルシウム血症)など限られており、腎機能が正常であるならば、上皮小体機能低下症の存在はその病歴症状から予想することができます。

 

>>>上皮小体機能低下症の治療は?

低カルシウム血症による緊急時には低カルシウム血症に対しては注射用グルコン酸カルシウムを用いて速やかに静脈内投与による治療を行います。
急性期を脱したら、初期には経口カルシウム製剤活性型ビタミンD3製剤カルシトリオール製剤)を用いて維持療法を行います。慢性経過をとる上皮小体機能低下症カルシウム濃度の安定がみられたら経口カルシウム剤をゆっくり減量して、活性型ビタミンD3製剤での維持を行います。これは適切な食事中には充分なカルシウムが含まれているためです。また、高リン血症に関しては別途治療を行います。

適切に治療を行うことができれば上皮小体機能低下症予後は良好ですが、カルシトリオール製剤など活性化ビタミンD3による治療カルシウム濃度定期検査は生涯必要となります。

下記に犬猫の上皮小体機能低下症に関してやや専門的ですが分かりやすいサイトがあります。ご興味のある方はご覧ください。
-> 役に立つ動物の病気の情報~獣医学「上皮小体の疾患」

----------------------------------------------

文責:あいむ動物病院西船橋 獣医師 井田 龍

 

耳血腫(じけっしゅ)

>>>犬の耳血腫とは?

耳血腫とはよくみられる耳介に生じる外傷性の変化です。人間では同様な異常が起こることはあまりないため、急性耳血腫が起きた場合には飼い主さんはびっくりして来院されることが多いものです。

耳血腫(耳介血腫)は人間では柔道などの格闘技や、ラグビーなどの頭部に激しい刺激を繰り返し起こすスポーツによって生じるスポーツ外傷としてよく知られていますので、こういったスポーツをされる方にとっては身近なものかもしれません。

犬の耳介は「自由に動かせる集音装置」であり「コミュニケーションの道具」、「車のラジエーターのような放熱作用」や「耳道鼓膜を保護する働き」など多様 な機能を持っています。
その機能を担うために耳介軟骨の周囲はたくさんの管が存在します。この豊富な血管が何らかの外部の刺激により破たんして、耳介軟骨皮膚の隙間を押し広げながら溜まった主に血液などの液体 が耳血腫の正体です。下記に耳血腫の仕組み下図に示します。

s0011_01[1].jpg

【耳血腫の模式図】(アニコム損害保険、どうぶつ親子手帳から引用)
ー> ワンちゃんの病気、耳血腫

 

>>>犬の耳血腫の症状は?

耳血腫耳介への反復する、特に後ろ足によって激しく掻く、もしくは頭部を激しく擦りつけたり、振ってバタバタさせることによる耳介への打撃により生じ、それがそのまま耳血腫症状となります。

急性耳血腫の中身は血液やそれが固まった血餅です。血腫が小さければ自然に吸収することもありますが、耳血腫そのものの不快感に加えて、原因になっている外耳炎などの影響で自ら損傷を悪化させてしまうため、耳血腫が元通りに回復するような自然治癒はあまり見込めません。

耳血腫は何の問題もないところに単独に起こることは少ないため同時にみられることが多い外耳炎、中耳炎などの耳の病気の症状を伴います。その他の要因には耳介やそれに近い部位の皮膚病外傷腫瘤外部寄生虫など多岐にわたります。

 

>>>耳血腫の診断は?

耳血腫診断はその外見上の大きな変化でですが、耳介の一部だけであったり、重度の場合には全体が腫れてしまうこともしばしばです。反復する刺激と耳介皮膚炎により多くは熱感を持っています。耳血腫はその特徴的な外見と犬が示す不快感や併発する外耳炎などにより診察室で容易に診断が可能です。

耳血腫はその大きさを増すほど不快感が強くなります。また、耳血腫で重たくなった耳介は頭部や周辺に勢いを増して打ちつけられるようになり、痛みや損傷などがさらにひどくなります。下の写真にそういった重度の耳血腫の例を挙げますのでご覧になってください。

DSC_4593.JPG DSC_4590.JPG

次の写真はアトピーに関連すると思われる長期の外耳炎(中耳炎)耳介その他の部位にも脂漏症による皮膚炎を常に起こしている例です。耳垢には大量のマラセチアブドウ球菌が見られました。

DSC_1989.JPG DSC_1990.jpg

次の写真は耳の汚れが常にみられるために外耳炎もしばしば発症し、耳血腫を繰り返している例です。耳垢からは常に大量のマラセチア細菌が検出されています。

DSC_5871.JPG DSC_5868.JPG

上記の耳血腫はいずれもマラセチアが関与する外耳炎に続発したものでした。マラセチア感染はワンちゃんの耳に強い痒みを引き起こす外耳炎の原因として頻度が高いものです。

マラセチア(Malassezia pachydermatis酵母様真菌というカビの一種です。同じカビではありますが、人で強い痒みを起こす水虫のカビ(糸状菌)とは違うグループに属します。下の写真がマラセチア顕微鏡写真です。紫色のピーナッツのように見えるのがマラセチア酵母です。

IMG_1760.JPG

健康な外耳道皮膚には常在菌として少数存在して、通常は問題を引き起こすことはありませんが、マラセチアが好む湿度温度、栄養とする脂分が多い環境では異常に増殖して、正常な皮膚の環境を壊してしまうのです。この条件がそろいやすいのが耳道、耳介皮膚であり、さらにアトピーであったり脂漏症などの皮膚バリア機能が低下した条件ではより拍車がかかります。

マラセチアが引き起こす痒みが強い理由は2つあります。まず、マラセチアは酵母の一種ですから、皮脂発酵させていろんな代謝産物(ゴミ)を排泄し、これが皮膚に対して強い刺激となります。またマラセチアの菌体そのものが強いアレルギーを引き起こすために、そこに生じる皮膚炎もまた強い痒みの原因となるためです。

ー> マラセチア性皮膚炎に関してはこちら

 

>>>耳血腫の治療は?

耳血腫の大きさにもよりますが、まず血腫に針を刺して注射器で内容物を抜去いたします。血腫が除去されると不快感がかなり低下いたしますが、そのままでは数日で血腫が元通りになってしまうため、再発防止のために耳介を圧迫するような包帯を巻きます。

同時に薬物による治療を行い、急性耳血腫で生じている強い炎症による痛みや不快感を抑え、さらなる悪化を防ぐために副腎皮質ホルモン製剤が使用されます。また、この際に標準的治療からはやや外れますが、血腫内インターフェロン投与を行われることもあります。
耳血腫のほとんどが外耳炎中耳炎耳介周辺の皮膚病を伴っているため、その治療を同時に実施いたします。

あまり活動的でない小さな耳血腫は上記の方法で治癒に向かいますが、大きな耳血腫血腫内での出血体液漏出が活発な場合には圧迫のための包帯耳介軟骨皮膚が再接着、治癒する働きを上回ってしまい、しばしば再発します。

下の写真は鎮静処置を行った後に耳介皮膚に切開を加え、血腫を除去したものです。広い切開によって内容物が常に排泄され、耳血腫を減圧するることができます。必要であれば切開部位にドレーンを装着して包帯を交換しながら、耳介軟骨皮下組織の接着を待ちます。

DSC_5874.JPG

上記のような処置でも出血体液をコントロールできずに再発を繰り返す場合には全身麻酔下での手術となります。血液血餅などの血腫内容の完全な排出と血腫内デブリードマンdebridement: 治癒を邪魔している不要な壊死繊維化した組織などを除去して、患部を清浄化することして、耳介軟骨血腫によってはがされてしまった皮下組織皮膚を接着させることを目的に縫合を行います。

----------------------------------------------

文責:あいむ動物病院西船橋 病院長 井田 龍

チョコレート中毒

>>>犬のチョコレート中毒とは?

人間にとってはありふれていて特に問題を起こさないにも関わらず、犬に毒性を持つ食品や嗜好品は生活環境に意外に多く存在します。
これらのうち中毒の危険性が高いものとしてチョコレートやココアなどのカカオ類を含む加工品やタマネギ、長ネギ、ニラなどのネギ類、ぶどう及びその加工品のレーズン、アボガド、マカダミアナッツ、キシリトールを含むガムなどのデンタルケア製品などが知られています。

チョコレート中毒はチョコレートやココア、それらの加工食品に様々な濃度で含まれるテオブロミンの過剰摂取により起こる中毒であり、タマネギ中毒と並んでしばしば犬で注意すべき中毒として広く取り上げられていますので大抵の飼い主さんはよくご存知ではないでしょうか。

テオブロミンカフェインと似た物質であり、大脳呼吸器心臓筋肉に対して強い興奮作用を持っています。チョコレートやその原料のカカオマス(カカオ豆)やコーラ、お茶などに含まれますが、特にチョコレートやカカオ豆は高い含有量を持ちます。
犬はテオブロミンの分解と排泄にとても時間がかかるため、テオブロミンの量が体の許容量を超え易く、人間と比べて中毒症状を起こしやすくなっています。

 

>>>チョコレート中毒の症状は?

チョコレート中毒症状は様々で、下痢嘔吐発熱興奮頻脈不整脈多尿ふらつきパンティング(息が荒くなる)、腹痛痙攣など多岐にわたる症状を示します。摂取量が多い場合にはさらに昏睡状態から死に至ることもあります。

チョコレート中毒は一般的に食べてから6~12時間後に中毒症状が現れます。犬の場合は人間と違ってテオブロミンの代謝・排泄に時間がかかるため、チョコレートを食べてから24時間程度は中毒が起こる危険性がありますから、食べてしばらくしても何もないからといって安心は出来ません。

 

〇チョコレートはどのくらい食べると危険?

チョコレート中毒となる量は犬の体重・体格や個体差により差がありますが、テオブロミンの犬での致死量はおおよそ「100~200mg/kg」(猫では80~150mg/kg)であるといわれています。軽度な異常は「20mg/kg」程度でみられ始め「60mg/kg」でも痙攣が起きる可能性があります。

体重に対してのチョコレートの摂取量から大型犬では大量のチョコレートが必要なため、普通の家庭環境では比較的中毒を起こしにくいものです。しかしながら中小型犬以下、チワワや特に近年小型化が著しいトイ・プードルなど、2キログラム以下の超小型犬では体重あたりのテオブロミンの摂取量が多くなり易いため、チョコレート中毒は体格の小さな小型犬でより多く発生する傾向があります。

チョコレートに含まれるカカオやテオブロミン含有量は製品には詳しく記載されておらず、さらにチョコレートの種類によって大きな違いがみられます。また、チョコレートを原料とするさまざまな加工菓子ではメーカーの顧客相談窓口に問い合わせても詳細が不明または即答できないということが多く、危険性の判定が難しいのが実際です。

もし誤食したものがチョコレートやココアであれば、それら1グラムに含まれているテオブロミンの概算値は下記の通りです。

・製菓用チョコレート :15 ミリグラム前後
・ココアパウダー   :5〜20ミリグラム

・ダークチョコレート :5 ミリグラム前後
・ミルクチョコレート :2 ミリグラム前後
・ホワイトチョコレート:~0.05 ミリグラム

ミルクチョコレートの板チョコで換算すると、1枚(約55g)につきメーカーによっても異なりますが、およそ110~120mgのテオブロミンが含まれます。つまり、体重5kgの犬では5枚ほど食べてしまうと致死量ということになります。軽度の異常は1枚程度でも出てくる可能性がありますので、いずれにしても食べてしまうことがないようにしましょう。

一般的にミルクチョコレートや市販のチョコレート風味の加工菓子類はカカオ含有量がもともと少ないため、ある程度食べても治療の必要性ないものも多いと考えられますが、カカオ含有量の多いダークチョコレートや特に「製菓用のチョコレート」やそれをふんだんに使用したホームメイドのチョコレートケーキなどの誤食には充分な注意が必要です。

犬種によるチョコレートの危険度のチャートが下記のリンクで見られますので、もしチョコレートを食べてしまった際にはおおよその危険予測ができるのではないでしょうか。
NATIONAL GEOGRAPHICの米国サイトですので接続は安全ですが、英語表記です。

ー> 犬種によるチョコレート中毒量の目安(Chocolate chart)

chocolate-968457_960_720.jpg

 

>>>チョコレート中毒の治療は?

チョコレート中毒を起こすテオブロミンの過剰摂取に対しては有効な解毒薬はありません。つまり、体に吸収される前に「嘔吐を引き起こす作用のある薬物」を用いて胃内から排泄させる必要があります。時間が経過して催吐処置が難しい場合や中毒量を超え致死量の摂取が想定されるような場合には緊急で胃洗浄が必要なこともあります。

チョコレートを含む食事内容がまだ充分に胃内にあると考えられる状態であれば、摂取量によらず積極的な催吐処置が可能な限り速やかに実施されます。これは飼い主さんがどんな種類のチョコレートをどれだけ食べたかが不明なことが多いのが理由のひとつです。
通常は一種類の薬物で処置で胃内容が排泄されますが、充分に排泄されない場合や薬物が効かずに吐きにくい場合には仕組みの異なる薬剤を組み合わせて実施したり、催吐処置を複数回反復して可能な限り排泄させます。
下の写真が薬物によって胃液と混ざって排出されたチョコレートです。

DSC_0277.JPG

胃洗浄麻酔下での処置が必要なためほとんど行われることはありませんが、中毒量以上のチョコレートを薬物により嘔吐させることができない場合や初めから致死量の摂取が想定される場合には緊急で胃洗浄を行う必要があります。

チョコレートを食べてしまってから数時間以上が経過してしまっている場合は催吐処置胃洗浄は効果が低く、もはや積極的にはなす術がありません。そうならないために中毒量のチョコレートを食べてしまった場合には、早急に動物病院にご相談ください。早い段階で胃内にあるチョコレートを除去することができれば摂取量によらず経過は良好です。
ただし、犬ではテオブロミン代謝が遅く、大量摂取などの場合には除去されずに吸収されたものの排せつには時間がかかることもあるため、処置後も念のため数日は注意が必要になります。

----------------------------------------------

文責:あいむ動物病院西船橋 獣医師 中山 光弘

1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8

診療時間

診療時間

年中無休
平日は朝8時から診療します
※年末年始・お盆は診療時間が短縮になります。
※水曜日、13時以降は手術・処置のため休診です。

047-402-3700(予約制)

※ご来院前にご予約をお願いしております。
※緊急の場合でもご来院前にご連絡ださい。

>メールでのご予約、お問い合わせについて

千葉県船橋市西船1-19-28 朝日ビル1階
無料駐車場13台
駐輪場9台併設
病院前に6台と隣接する7台の駐車スペースがあります

駐車場

あいむ動物病院 西船橋フェイスブック

あいむ動物病院 西船橋スタッフ