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チョコレート中毒

2月14日、今年もバレンタインデーがやってきました。。。

例年通り、心のこもったものからそうでないものまで、悲喜こもごものチョコレート贈呈式が全国で繰り広げられることと思われます。
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この時期に家庭内で多発する犬(まれに猫)の中毒として「チョコレート中毒」はあまりに有名です。
”犬の飼い方”的な書籍やSNSなどネット情報でも、注意すべき中毒として筆頭に取り上げられていますので、多くの方はよくご存知ではないでしょうか。

チョコレート中毒チョコレートココア、それらが含まれた”加工食品”にさまざまな割合で含まれる「テオブロミン」の過剰摂取により起こります。

このテオブロミンは、皆様がよくご存じのカフェインと似た物質で、植物由来の化学物質(ファイトケミカル)として、モルヒネコカインなどの麻薬と近縁の関係にあり、呼吸器心臓筋肉に対して強い「興奮作用」を持っています。

テオブロミンチョコレート、その原料のカカオマス(カカオ豆)に多く含まれます。また、昔の”コカ・コーラ”エキスの原料として知られるアフリカ原産の”コーラ”という植物の実や、”強壮剤”として有名なガラナの実、茶葉にも含まれています。

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ところで、このテオブロミンですが、なぜ人間は大丈夫なのに犬は中毒を起こしやすいのでしょうか?

それは、犬ではテオブロミンの分解と排泄にとても時間がかかるため、容易に体の許容量を超えて蓄積してしまうためです。

チョコレート中毒の表れ方は様々です。
下痢、嘔吐、発熱、興奮、頻脈、不整脈、多尿、ふらつき、パンティング(息が荒くなる)、腹痛、けいれんなど多岐にわたる症状を示します。

摂取量が多い場合にはさらに昏睡状態から死に至ることもあります。

チョコレート中毒は誤食後の6~12時間程度で中毒症状が現れます。

犬は人間よりもテオブロミン代謝・排泄に時間がかかるため、チョコレートを食べてから24時間程度は中毒が起こる危険性があります。つまり、食べてしばらくして何もないからといって安心は出来ないのです。

では、チョコレートはどのくらい食べると危険なのでしょう?

テオブロミンの中毒量にはそれぞれ個体差があります。
その致死量は体重1Kg当たり
犬では100~200mg、猫では80~150mgであるといわれています。
20mg/kg程度から興奮などの軽度な異常がみられ、60mg/kgで痙攣などの強い症状が起きる可能性があります。
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意外に思われるかもしれませんが、大型犬は小型犬よりもチョコレート中毒の発生リスクが見かけ上少なくなることはご存じでしょうか。
一般家庭のテーブルの上にミルクチョコレートが10枚も20枚も置いてあることは通常ないのがその理由です。つまり、大量に食べる必要があるためです。

一方で、小型犬や小型化が著しいトイ種のような2キログラム以下の超小型犬種では特に中毒の発生リスクが高くなります。これは、大型犬とは逆の理由です。
体重が少ない方が中毒量に至るテオブロミンを一気に摂取してしまう機会が多くなります。

つまり、動物を取り巻く生活環境の影響により、チョコレート中毒は犬の体格が小さいほど、より致死率が高くなる傾向があるのです。

また、チョコレートに含まれるテオブロミン含有量は製品には詳しく記載されていないこと、さらにチョコレートの種類によっても大きな差があるということが、誤食の場合の不安を煽る結果となります。

チョコレートを含む加工菓子ではメーカーの相談窓口に問い合わせても、カカオマスの量も不明または即答できないということがほとんどであり、公的サービスの「中毒110番」でも同様です。(※)
つまり、消費者レベルでの危険性の判定が難しく、飼い主さん自らがその判断を迫られます。

(※)「中毒110番」は人間用のサービスであり、飼育動物に関しては本来は対象外です。

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もし、誤食してしまった場合のざっくりとした目安ですが、チョコレート類の1グラムに含まれているテオブロミンは下記の通りです。

・製菓用チョコレート :15mg前後
・ココアパウダー   :5-20mg
・ダークチョコレート :5mg前後
・ミルクチョコレート :2mg前後
・ホワイトチョコレート:<0.05mg

よくあるミルクチョコレートの板チョコで換算すると、1枚で約55gとしてメーカーによっても異なりますが、だいたい110~120mgのテオブロミンが含まれます。

つまり、体重5kgの犬ではミルクチョコレート5枚ほどで致死量レベルに達するということになります。

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チョコレートを誤食したという訴えで来院する患者さんの多くは、摂取量が少なかったり、もともとカカオ含有量の少ないチョコレートや菓子類の誤食であったり、結果的にはテオブロミン中毒量にまで至らならないケースが多いものです。
例えば、ミルクチョコレートや”チョコレート風味”の加工菓子類はカカオ含有量がもともと少ないため、ある程度食べても治療の必要性ないものものがほとんどです。

一方で、カカオ含有量の極めて多いダークチョコレート、「製菓用のチョコレート」やそれをふんだんに使用したホームメイドのチョコレートケーキなどの誤食には特に注意が必要です。
また当然ですが、カカオ含有量の少ない製品でも”大量”に食べてしまった場合も同様です。

チョコレート中毒を起こすテオブロミンの過剰摂取に対しては有効な”解毒薬”はありません。つまり、体に吸収される前に除去しなければならないため、中毒を回避する処置には時間制限があります。

まだチョコレートを含む食事内容がまだ充分に胃内にあると考えられる、数時間以内の段階で除去することができるならば、摂取量によらず経過は良好です。
もし、中毒量に近いチョコレートを食べてしまったと思われる場合には、あまり時間をおかずに早急に動物病院にご相談ください。

それでは、楽しいバレンタインデーを。。。ワンコのいるご家庭ではくれぐれもご注意ください。

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文責:あいむ動物病院西船橋
   病院長 井田 龍

#猫バンバン

いつの間にかもう師走ですね。

今年の冬は多少過ごしやすいのでは?とは思いますが、それでも冬真っ盛りとなって参りました。

連日、寒さが続いて外に出るのもちょっと億劫になっている方も多いのではないでしょうか?

もちろん、屋外生活の猫たちにも、我々よりさらに過酷なかたちでその季節が訪れています。
この季節、屋外生活の猫はできるだけ暖かく安全そうな場所を探し回り、そうした場所に身を潜めていることでしょう。(下の写真は近所の駐車場の常連さん達です。)

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ところで、ドライバーの皆さん、車に乗ろうとドアノブに手をかけた途端に車の下から猫が慌てて飛び出してくるのはよく目にする光景だと思います。突然ですからびっくりしますよね。
車体の陰は猫の外敵から身を隠しやすい場所であり、特に冬季には車の余熱が残る場所は寒さしのぎの避難先にもなっていることはご存知の方も多いでしょう。

”エンジンがかかれば、猫は逃げちゃうでしょ?”

もしかしたら、多くの方は漫然とそう思っているのではないでしょうか?

まさか、エンジンルームに猫が入っているなんてことが想像できず、エンジンをかけている方がほとんどなはずです。毎日、膨大な数にのぼる「まさか」のうちの幾つかが悲劇を生み、その都度ひとつの命が危機に見舞われています。

獣医師であればすべてといっていい程、こうした悲劇の猫たちの姿を多かれ少なかれ必ず忘れ得ない記憶として残しているものです。

エンジンルームの隙間でタイミングベルトなどに巻き込まれて動物病院に運ばれてくる猫の状況は一般の方にはまさに正視に耐えない状態であることも数多く経験します。
生後、まだ数か月程度の子猫の被害が目立つのですが、仔猫は体が小さいため狭い隙間に入りこみやすいということと、まだ経験が少なく車の危険性を学習できずに逃げ遅れるなどの理由からではないでしょうか。

統計などありませんが、病院に連れて来られることもなく、もしくはその場で犠牲となっている猫はかなりの数に上ることは間違いありません。
動物病院にいらっしゃる自動車修理関係の飼い主さん達からは、猫がエンジンに巻き込まれて持ち込まれる車両は多いという話を実際に何度も聞いたことがあります。

ー>「JAF、クルマ何でも質問箱、トラブル」

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社会の片隅に埋もれてしまっているこのような実態に対して、我が国を代表するグローバルメーカーの日産自動車が光を当て続けています。
この日産自動車が推進するCSR(企業の社会的責任)事業の一環?だろうと思うのですが、私たちの生活に身近な猫の悲劇を防ぐために継続的な啓発活動を行っていることを皆様はご存知でしょうか。
毎年、冬季に日産自動車のホームページやSNSなどでそのような啓発を見かけた方もそれなりにいらっしゃると思います。

「猫バンバン」という標語は、車のエンジン始動の前にボンネットを”バンバン”して猫をエンジンルームから追い出す行為を指します。広い意味では車体の下やタイヤハウスなどの物陰に潜んでいる猫に”危ないぞ”というサインを送って、猫を危険から遠ざけましょうという意味合いも含むものと思います。

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実際にはボンネットなど車体をバンバンしたり、ドアの開閉を繰り返したような場合には猫が恐怖を感じてさらに奥へと逃げ込んでしまうという指摘もあるのは確かです。
最終的ににボンネット開けてエンジンルームまでしっかりと確認する必要もあるのかもしれませんし、それでも見つからない場合さえあるようです。
エンジンルームなんて滅多に見ないといというユーザーも多い中、そうした可能性の問題まで対策を求めると「猫バンバン」自体のハードルがとても高いものになってしまいますからそれは考えものです。

完璧を期すのはなかなか難しいものですが、少なくともこうした事実や最低限取るべき行動を多くのドライバーがシェアすれば、全てではないものの痛ましい事故が多少は減る方向には向かうのではないでしょうか。

不充分かもしれないけれど、とにかくやってみましょうということはとても大事なことです。

ー>「猫バンバン」とは?(Wikipedia)
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企業が収益と一見無関係にみえる事業を行うことを単なるイメージ戦略のひとつといえばそれまでですが、大小の社会への貢献を表明するために多くの企業がそういった事業を行うご時世です。
社会貢献を行う企業から消費者へのメッセージは誰もが受け入れらえれ、わかりやすく印象に残るものでなければならないでしょう。

そういった意味で「猫バンバン」という目を引く猫のアイコンとワンフレーズによる、インターネットを賢く利用した啓発活動を選んだ日産自動車の着眼点には素晴らしいものがあると思います。
多額の費用をかけずとも、痛ましい猫の死への世間の認知度を上げるという社会貢献も果たしつつあるでしょうし、自社のイメージアップにもそれなりに成功したのではないでしょうか。

さらに今後の展開として「猫バンバン」という呼びかけだけに留まらず、車のあり方に関わるような何かより実効性のある対策があれば文句なしの出来栄えとなるでしょう。
残念ながら車側のコストアップにつながるような対策のハードルはけた違いに高いと言わざるを得ませんが、それはその時点で動物愛護の視点の問題ではなくなるということでしょうから致し方ありません。

「猫の侵入による外的要因による故障」が車の品質問題だという認識が消費者、それも世界的に起こらない限りはコスト競争に血眼になっている製造業にその選択をさせるのは難しいのは確かなことでしょう。
まあ、購入の際にディーラーオプション品として、猫の侵入を防ぐような装置などがあれば、「猫バンバンプロジェクト」と合わせて日本国内ではそれなりの需要はあるかもしれませんが。。。

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この「#猫バンバンプロジェクト」に好意を感じるような潜在顧客層は普段から猫に何らかの愛情や関心を感じているか、それが昂じて猫を飼っているという社会全体から見ると多いとはいえ限られた人々と言えるでしょう。

猫好き脳のフィルターを通して見ると、そんなことないのでは?と感じるかもしれませんが、実際には猫の飼育世帯率はわが国では昨今の「ネコノミクス」などという造語の話題性にも関わらず世界的に見ても低いわずか9.9%でしかありません。
(2016年、一般社団ペットフード協会調査による)

一方で、さまざまなレベルの「猫嫌い」は猫好きな層に対して無視できないほどの割合で存在していると思われます。そうした無関心以下の層に対してはこのプロジェクトは訴求力はおろか、場合によって嫌悪感さえ生じかねません。

また、さらにこの話題は猫好きに対しても、かわいらしい猫のキャラクターに隠れて表立っては表現されないものの、車という自社が製造しているプロダクトが引き起こす可能性のある猫の死などの凄惨性の強いネガティブなイメージを伴っています。

強調しすぎれば、なんでも他責の世の中(特に企業には)ですから、藪蛇的にあらぬ方向から話が自社製品の問題に及んだり、なぜ対応をユーザー任せにするのか?などという責任の一端を負わされかねない、なんてこともあるかもしれません。

とりわけ猫にシンパシーのない層にとっては迷惑な猫によって大事な車の価値が損なわれたり、事後処理や故障への金銭的、精神的負担を生じる可能性のある問題でもあるわけですから。。。

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このプロジェクトが、その受け手によるマイナス面を持っているのかどうかは実際には分かりません。
いずれにせよ日産自動車が事故に巻き込まれる猫に自社プロダクトが関係する可能性がある、という微妙なリスクをとりつつこうした活動を継続的に行うということは意義深いものがあると思います。

万人受けを狙うばかりに「木を植える」ような優等生的な活動が人や資金の投入に見合わずイメージ戦略としていまひとつであったり、差別化できずに金太郎飴的に埋もれてしまったりとイメージづくりとはなかなか大変なものでしょうが、「猫バンバン」がターゲット層に与える印象はそうしたものとは対照的です。
日産自動車の判断はココと決めた層には非常に分かりやすく強い印象を残すことができるという点でイメージ戦略とはこうあるべき、といういいお手本といえるのかもしれません。

今後の展開としてあるかどうかわかりませんが、もし、こうした取り組みがメーカー1社にとどまらず業界全体に、さらに異業種などをと巻き込んで起これば「我々、猫が好きでたまらない層」に留まらず、ちょっとだけですが世の中が明るくなるような気がいたします。。。

今年も「#猫バンバン」プロジェクトは継続されているようですので、微力ながら応援させていただきたいと思っております。

何やら余談が長くなってしまいましたが、さて、皆様いかがお感じになるでしょうか?
ご興味のある方はぜひ下のリンクをぜひ訪れてみてください。

ー>「のるまえに猫バンバン」
  (日産自動車のサイトへリンクします)

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文責:あいむ動物病院西船橋
病院長 井田 龍

ペットと新型コロナウイルス

はじめに。。。

当コラムの文章は「動物医療」から見た新型コロナウイルスの位置づけと現状に関して、医療の専門家と異なる獣医師の立場で、私見を交えて医学獣医学の視点から横断的に書いたものです。
また、この文章は令和2年2月下旬の時点で得られた情報を元にしており、その後のアップデートはされておりません。

ご覧になる方は上記の点をご留意の上でお読みください。

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令和2年の始まりと共に、中国武漢発の「新型コロナウイルス」による新興感染症武漢肺炎)の日本への蔓延に関して連日のようにメディアで取り沙汰され始めて1ヶ月少々が経過しました。
連日、メディアからもたらされる情報に多くの方が不安を抱いていらっしゃるであろうと思います。

この1月までは「武漢肺炎」と呼ばれていた感染症は2020年2月にWHO(世界保健機関)の決定により急性呼吸器疾患
COVID-19COronaVIrus Disease 2019)という公式名称を与えられました。ほぼ時を同じくして、その後、我が国への水際対策が功を奏さずに大方の予想通り国内への蔓延が始まることになります。

現在、メディアや公的機関では国内ではこの公式名称は用いず、「新型肺炎」であるとか「新型コロナウイルス感染症」と呼ぶようになっています。

この新型肺炎の原因とされる新型コロナウイルスですが、その感染経路潜伏期間といった感染症の基本情報のレベルにおいても確たるものがないまま様々な情報が錯綜しており、時間を経ても、なお全貌を見せない脅威に対する不安が日々増幅され続けています。

現在、異常に長い潜伏期間無症状感染を拡散するスプレッダーの存在など、既に知られた季節性インフルエンザなどのウイルス感染症とも明らかに異なるこの感染症の特徴から、波及する問題が国内外、各方面に波及して大きな社会・経済問題にフェーズが移行し、より複雑な状況になりつつあります。
そうした不安心理の現れか、マスクに始まりついに”トイレットペーパー”が棚からなくなるという、我々日本人がいつか見た光景を再び経験することとなりました。

当初から、こうした危機に対してその責を持つはずの政治や行政の情報発信の姿勢やリーダーシップの問題は、幾度も繰り返されてきた我が国の危機管理能力の甘さを図らずも露呈しているかのようです。
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混乱状況の下で、特に犬猫をはじめとする飼育動物とその飼い主(人間)の間で、この新型コロナウイルスがどのようにふるまうのか?

この問題は動物と暮らしている方には非常に気になる点ですが、まだそこまで社会的にも医学的にも注意が向いていないことから、あまり問題視はされておりませんでした。

人間社会が混乱した状況ですから、社会的に優先順位が高くない飼育動物においてはその代表格の犬や猫でさえ、この感染症の理解するべき実態とは何なのか、まだ分からないというレベルなのでしょう。

このような情報不足の状況や、深刻度がそうさせるのか想像できませんが、震源地の中国では感染の可能性を恐れるあまりに犬猫などの遺棄や殺害が相次いでいる、という悲しいニュースがいくつか入ってきています。

感染症の蔓延という緊急事態による社会的な混乱に際して、身近な動物たちをどのように扱うのか?

こうした問いに対して極論で考え、行動しなければならないほど、彼の国では切迫した事情があるのでしょう。。。社会体制や文化、国民性が大きく違うとはいえ、我が国でも明日は我が身となり得る問題を孕んでいます。

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折しも2/28にネット情報により、香港で新型コロナウイルスに感染した飼い主の飼育している”犬のウイルス検査”をしたところ、”弱い陽性反応”が検出されたというニュースが犬の感染例のおそらく第一報として入ってきました。
その後、1週間弱でNHKなど大手メディアで報道され始めていますので、そろそろ耳にされる方も増えてくるのではないかと思います。

ニュース内容は下記リンクを参照してください。
>NHK NEWS WEB

国内での報道では、どういった検査無症状の犬が新型コロナウイルス感染症と判断したのか、検査方法など詳細が不明なこと、ただウイルスが付着していただけという反対意見もあるようですので、これらの点に関してさらに続報を待ちたいと思います。

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ここで、まず世間での誤解も多いこの「コロナウイルス」とは一体何者なのか?ということから整理していきたいと思います。

今回の騒動によって軽い咳払いは勿論のこと、日常会話はもちろん診察室でも、コロナウイルスなどと口に出そうものなら、新型コロナウイルスか?!、いったいどういうことなんだなどと眉をひそめられるような雰囲気がすっかり定着してしまった感があります。

その理由はコロナウイルス、イコール新型コロナウイルスという世間の誤った認識が定着しつつあることです。この辺りはワイドショーなど、不安を煽るメディアの影響などもあるのでしょう。

実際にはコロナウイルス自体は、新たに発見された”恐怖”のウイルスというわけではありません。

国立感染症研究所のHPに解説がありますのでご興味のある方はご覧ください。
>コロナウイルスとは

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※写真と模式図は国立感染症研究所のHPより転載

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コロナウイルスはもともと自然界にありふれたウイルスであり、人類だけではなく野生動物家畜飼育動物などあらゆる動物種に分布し、太古から様々な感染症の原因となっています。

人間に感染するコロナウイルスは、既にに人類に蔓延している誰しも経験のある風邪の原因ウイルスとして4タイプが知られています。
風邪の原因の一割ちょっとがコロナウイルスによるものであり、その多くは軽症の上気道炎を引き起こします。大人になるまでにコロナウイルスにかかったことのない人などおそらく存在しないくらいのありふれた感染症のひとつです。

一方で、2002年~の「中国広東省」発の重症急性呼吸器症候群(SARS、サーズ)や2014年~中東発の中東呼吸器症候群(MERS、マーズ)の原因となり、世界的に大問題となった2タイプの”危険な”コロナウイルスが知られています。
今回問題になっている「中国武漢発」のコロナウイルスは、人間に感染する7種類目、近年、人類社会に侵入してきた「新型コロナウイルス」としては3種類目のウイルスになりました。

これら3種類の動物由来の新型コロナウィルスは、いずれもを強く侵して重篤肺炎を起こす特徴があることから、もともと人間に感染して風邪を起こす「旧コロナウイルス」よりも重症度致死率が高くなっています。
こうした病原性の強いコロナウイルス家畜野生動物などを介して人類に伝搬されてきたものです。

2002年にコウモリからもたらされたSARSも、2014年のラクダ由来のMERSも、今回と同様に人類が接触したことのないために免疫を持たない、動物由来の新型コロナウイルスとして流行を起こしました。

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人類史上、今回の新たなコロナウイルス感染症を含めて次々と繰り返されてきた動物由来の感染症、例えばエボラ出血熱日本脳炎、古くはペスト狂犬病などに代表される感染症人獣共通感染症、または動物由来感染症と呼びます。
この人獣共通感染症はWHOで把握されているだけでもなんと200種類以上にも上ります。

動物由来感染症に関して、厚生労働省の分かりやすい解説がありますので、ご興味のある方は下記をご覧になってみてください。
>動物由来感染症ハンドブック

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余談ですが、近年問題になっている「生物テロ兵器」として炭疽菌ペスト菌野兎病菌ウイルス性出血熱ウイルス等の病原体のいずれもが、こうした人獣共通感染症に由来するものだそうです。

今回の新型コロナウイルスが中国武漢の研究施設から漏れたものだという、拭えない疑惑はこうした背景と、実際にコロナウイルスに関する”さまざまな”研究が行われていたということに端を発しています。

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コロナウイルス人類以外にもなどの家畜コウモリをはじめとする多種多様な野生動物に広く分布しています。
もちろん動物医療の対象となるようななじみ深い飼育動物猫、フェレットなどにもそれぞれの種に固有な多くの種類のコロナウイルスが存在します。

このうち、動物医療では全身感染を起こすコロナウイルスとして致死率の極めて高い猫伝染性腹膜炎ウイルスFIPV)が特に有名です。
このウイルス無症状で常在したり、腸炎の原因となる猫コロナウイルス(FCoV)遺伝子変異により病原性の極めて強い猫感染性腹膜炎ウイルスに変化したものと考えられています。

にも腸炎の原因となる犬コロナウイルス(CCoV)がいくつか知られています。このウイルスにより引き起こされる腸炎病原性はそれほど高くはないものの、糞便に大量に排泄されたウイルス経口感染により容易に他の犬に拡散します。
繁殖施設などの飼育密度の高い環境で流行を起こすため、犬の混合ワクチンの一部には犬コロナウイルスに対するワクチンを含む製品があります。

さらにには、少ないながら呼吸器感染を起こす犬呼吸器コロナウイルス(CRoV)や全身に致死性感染症を起こす変異株の存在も知られています。

フェレットでのコロナウイルス感染症は2種類知られており、それぞれ流行性カタル性腸炎(ECE)と呼ばれる腸疾患と、近年明らかとなったフェレット全身コロナウイルス(FRSCV)関連疾患が知られています。
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犬猫などの伴侶動物のコロナウイルスによる感染症は身の回りに広く分布しており、そこには同じように無症状でウイルスを保有する健康な動物も含まれています。

実際にこうしたコロナウイルスが人間に感染症を及ぼした例は知られていません。
また遺伝子変異を起こして生じる猫伝染性腹膜炎ウイルスなどにおいて、その致死率が9割以上に上る重篤感染症もありますが、そうした変異ウイルスおいても同様です。

結論として、一般的には”既知”のコロナウイルスでは他の動物種病原性を及ぼさないという種特異性が高く、イヌヒトネコヒトのような”種の壁”を越えて人間や他の動物に感染することは殆どないとされています。

もちろん、今回の新型コロナウイルスは以前の新型コロナウイルス(SARS、サーズ)同様に野生のコウモリ由来の可能性が言われており、少なくとも人間との”種の壁”を越えた前歴からも、さらに犬や猫との”壁”を越えてしまう可能性を否定することはできません。

先ごろ、香港発の報道であったようにヒトからの間の感染を疑う事例により、要注意であるという状況にはなりました。
もちろん、直ちにそれが人間社会に新たな脅威になるかどうかは現時点ではまだ分かりません。

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実は毎年人間社会で大きな流行を起こすインフルエンザにおいては、犬や猫とその飼い主との感染をおこしたという報告がいくつもあがっています。
さらに2009年のパンデミック(世界的な大流行)を起こして多数の死者を出した新型インフルエンザにおいてもへの感染例の報告があり、現在の新型コロナウイルスにおける危惧と同じ様な状態が引き起こされています。
しかしながら、こうした感染は極めて限られた範囲で起こっており、結果的には過去、現在においても大きな問題にはなりませんでした。

また、我々獣医師にとって身近な問題として、人間の季節性インフルエンザでは”種の壁”を超えてしまう、ヒト→フェレットの感染が身近にあります。
インフルエンザの時期には動物病院にも飼い主さんから感染を受けたと思われるフェレットが時折訪れますが、今のところ問題は生じていないというのが実際のところです。

もちろん、限られた範囲でヒトフェレットインフルエンザ感染がごく普通にあるからといって、飼育動物とのイレギュラーなウイルスのやりとりを問題視しないということではありません。

むしろ危険側から考えると本来あってはならないことが意外に起こっている、ということをお伝えするためです。
飼育動物からのイレギュラーなウイルス感染は”論文の上だけ”で起きていることではない、ということもまた事実です。

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人類は絶えず新たなウイルスを含む病原体の挑戦を太古の昔から受け続け、多くの犠牲を払いつつも生き延びてきました。もちろん、この先も人類とウイルスの戦いは避けようがありません。

結論としては抽象的で、だからどうなんだ?とお叱りを受けるかもしれません。

今回の新型コロナウイルスの脅威に際して、現代社会の弊害ともいえる、情報過多によるる”インフォデミック”を指摘する意見もあります。※
感染症による実害をさらに悪化させることを避けるために、極端な楽観論でも悲観論でもなく、各々が情報を整理して事実をひとつひとつ積み上げ、冷静さを失わずに正しく恐れるという姿勢が大事であろうかと思います。

インフォデミックとは感染症の世界的な蔓延の意味のパンデミックをもじった造語で、さまざまな”情報”が世の中に蔓延して起こる悪影響のことです。

このコラムがご覧の皆さまの情報の糧として、どの程度の役割を果たせるでしょうか。
今後もしばらく続くであろう新型コロナウイルス感染症を”正しく恐れる”ための基礎知識として、何らかの気づきのきっかけとして、多少なりともお役に立てれば幸いです。

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最後に。。。

 WSAVA(World Small Animal Veterinary. Association)、世界小動物獣医師会という世界的な獣医師のグループがあります。

この組織がこのコラムの執筆時点で、2020年3月7日更新の指針を発表しています。日本語訳ページのリンクは以下のとおりですので、ぜひご覧になってみてください。

「新型コロナウイルスと伴侶動物」

また、2月11日時点での「新型コロナウイルスと伴侶動物についてのガイドライン」を発表しており、獣医療関係者が下記の通り説明をするよう求めています。

◯十分に衛生状態を保てる限りは飼っている伴侶動物と一緒にいること 
◯ 猫は屋内にとどめておくこと
◯もし家族や友人で入院している者がいる場合は動物を預けに出すこと
◯ 不安がある場合は速やかに獣医師に相談すること

なお、上記に関する日本語訳ページのリンクは以下のとおりです。

>「新型コロナウイルスと伴侶動物についてのガイドライン」

ご参考になさってください。

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文責:あいむ動物病院西船橋
   病院長 井田 龍

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