診療Column

”狂犬病予防”とは何か?

はじめに。。。

ワンちゃんと生活している方にとっては、春先のこの時期にお住いの自治体から郵送されてくる、毎年同じ「狂犬病予防接種のおしらせ」を手に取ることが一年の節目?のようになっている方は案外多くいらっしゃるのではないでしょうか。。。

今回はあまりにありふれていて、飼い主さんも時として獣医でさえ、それぞれの立場でなんとなく分かっているつもりでいる狂犬病とその予防について、余談も含めていろいろと書いてみました。

sick_vaccine.png

皆さまは、「狂犬病予防」と聞いて何を思い浮かべますか?

もしかすると、世間一般的には、”公園に飼い主さんと犬がワイワイと集まって、獣医さんが次々と打つアレでしょ?”などという、狂犬病予防の集団接種の会場の風景が頭に浮かぶというものかもしれません。実際に、狂犬病がいったい何なのか、何で問題になるのかがよく分からないという方が多いのではと想像します。
ワンコとの生活が長い方でも、狂犬病はとても怖い病気らしいということは分かるけれども、もう日本にはないはずなのに、”なぜ?”予防接種をしなきゃいけないのだろうと毎年、なんとなく続けていらっしゃる方が多いかもしれません。

狂犬病は50年以上も昔に国内から撲滅された感染症です。もはやその病気を実体験として知る方は非常に少なくなり、戦後の出来事と同様に人々の記憶からは消え去ろうとしています。日ごろから予防行政に関わっている私たち獣医師にとっても、狂犬病は既に”教科書の中の伝染病”となって久しく、この病気への関心は高いとはお世辞にも言えません。

ちなみに私は40代後半なので、この病気の実体験は当然ありません。小さい頃に祖母から狂犬病についての逸話や生家の周りで以前あったという「野犬狩り」の話を聞かされたことがある程度です。地元は横浜のはずれでしたが、まだ野犬が出るから危ないと伝えられている場所があったと子供心に記憶しています。

----------------------------------------------

ところで上記の、なぜ狂犬病予防?”、というくだりの答えは「狂犬病予防接種」とそれに伴う自治体への「畜犬登録」、「鑑札を着けること」は犬を飼育するに上で飼い主の義務となっているからです。(答えになっていないかもしれませんが敢えてこう書きました。)
この義務というのはやった方がよいという努力目標などではありません。それは我が国で犬を飼育する上で狂犬病予防法による法律的な義務を誰であろうと負わなければならないからです。

では、同じように生活している猫は?ウサギやハムスターは?。。。
もちろん、犬以外の動物を飼う上での法律上の義務はありません。

では、なぜ犬だけなのでしょうか?

それは、人間の生活圏で起こる都市型狂犬病は犬をはじめとする人との関係の深い動物がもたらす伝染病であるためです。かつて日本国内で流行した狂犬病は犬が人にもたらす病気としての特徴を強くもっていました。
戦後に流行した狂犬病は、犬の登録義務や予防の実施のみならず、病気を発症した疑いがある犬はもちろん、野犬など感染の可能性のあるのものを排除することで撲滅に成功しました。我が国の法令義務的予防接種のしくみはこうした歴史の延長線上にあるものです。

pet_inu_chuusya.png

ところで、この狂犬病予防法に違反した場合には罰金、さらに起訴や拘留に至るまでの重い処罰の対象となる可能性があります。ご参考までに、法律に定められた飼い主の義務に違反した場合には「20万円の科料」となっており、これは「予防接種をしなかった」だけではなく、単に「鑑札を着けていなかった」ことにも及びます。

いかがでしょうか?随分と重いと感じられたはずです。

実際にはかなりの方が法律違反を犯しているのではと推測できますが、その実態は「あまり取り締まられない交通違反」のようなものです。”ノルマを課してまで”熱心に違反を取り締まる警察に比べると、狂犬病予防法を管轄する行政の姿勢が各自治体ごとにバラバラで総じて鈍いためです。
狂犬病予防法の義務や罰則がやや重く感じるのは、狂犬病の制圧を求められていたという法律の制定時の時代背景もありますが、この法律がいつか起こるかもしれない狂犬病の発生という”緊急事態”を想定したものであることもその理由のひとつでしょう。狂犬病が発生していない”平時”の行政の取り締まり姿勢が”意図的に緩い”のもそういう理由かもしれません。

ちなみに当院は千葉県船橋市市川市からの患者さんが大部分を占めますが、市境にお住いの患者さんの話よると未接種世帯への督促は、市川市>>船橋市のようで、”お隣なのに船橋は緩くて、市川は厳しい”という意見がよく聞こえてきます。
市境を家一軒分跨ぐだけで自治体の対応が違うというのはどうなのかと正直思いますが、こうした行政側の都合が法律の順守を曖昧なものにしている点は否定できません。

罰則を伴う法律の運用が自治体によりまちまちで「行政の一部門のヤル気に依存する」というのはどうも困ったものです。。。

----------------------------------------------

ちょっとここで一旦、法律的な問題は横に置いておくことにしましょう。

日本国内での犬の咬傷事故は届け出だけで年間6000件はくだらないだそうです。この数字をぱっと見ると何やら少ないような気もしてきますが、実際のところはよく分かりません。
ところで、こうした事故の際に、予防をしていない犬がもし他人を噛んだりケガをさせた場合、またはその疑いをかけられた場合、狂犬病未接種だった場合には意外なリスクが潜んでいることをご存知でしょうか?
以前、通りすがりに足首に歯が当たったということからトラブルに巻き込まれた、おとなしい小型犬の例を経験したことがあります。そうしたまさに貰い事故みたいなものであって、仮に加害者に非がない場合でも狂犬病予防を怠っていた場合には、それはもう法律違反ですから、その一点で加害者の立場はより悪くなるわけです。

咬傷事故を起こしたと申し立てられた加害者の飼い主さんは、噛んだ犬が予防をしていない場合には狂犬病に罹っていないことを獣医師診断を何度も受け、費用、労力、時間をかけて狂犬病に罹っていないことを証明してもらわなければなりません。
この作業を狂犬病鑑定といいますが、獣医師は時折、咬傷を起こしてトラブルに巻き込まれている飼い犬の鑑定依頼を受けることがあります。私が過去に依頼を受けた加害者の方が狂犬病予防接種をしていないという落ち度により、賠償などに関して不利な立場に追い込まれているケースをいくつも見てきました。

本末転倒な話ですが、狂犬病予防をしていないということは法律違反のみならず、こうした日常生活の上での不意な事故や予想外のリスクを高めることも知っていただければと思います。
 

zutsu_neko.png

狂犬病予防のシーズンになると、動物病院の診察室では、”うちのタロー、もう10歳だから狂犬病予防接種は受けさせたくないんだけど、大丈夫ですよね?”、”かわいそうだから狂犬病予防をしないようにできる書類をもらえませんか?”などという話が毎年、繰り返されるものです。
私自身、室内飼育の老チワワの飼い主の1人ですから、こういった飼い主さんの心情は個人的にはとてもよく理解できますが。。。

狂犬病予防接種をやりたくない”というご相談には職業的にはその都度、予防の義務を丁寧に説明を申し上げるのですが、なんだか納得いかないという気持ちを投げかけられることも少なからず経験いたします。
インターネット上でも「個人的事情」をはじめとする不要論、業界利権だとか「副作用で多数が犠牲になっている」などのデマに至るまで様々なものがみられます。
否定的なものの一部にはページビューやアフェリエイト等のために注目されやすい極論で煽るようなサイトも見受けられますが、こうしたことも含めて現行の仕組みを不満に感じている方がそれなりの数いらっしゃる現れといってもいいのかもしれません。

たくさんの意見があるのはもちろんよいことでしょうが、我々獣医師国家資格をもらって仕事をしておりますので、狂犬病予防法に基づく予防の必要性を説明してその促進するという責務を負っています。この点には議論の余地はありません。
これは税理士さんが「税法」による納税の義務を説明することや、自動車整備工場が車検の必要な車の所有者に「道路運送車両法」に基づく車検の義務を説明することと何ら変わらないものです。

上記のタロー君に関してのご相談を獣医師に投げかけることはつまり、”もう年だし税金もきついから今年から納税しなくて大丈夫かな?”、と税理士に尋ねたり、”クルマはあまり乗らないから車検を延期できる書類を書いてくれ”、と整備工場に直談判することと同様に意味がないことであるとお察しください。。。

法律的義務などというものは、個人的な心情で納得いかないとか面倒だと思いながらも、法律違反によるペナルティや不都合ゆえに従わざるを得ないものでしょう。狂犬病予防も表面上は業界の悪習や利権のように見える部分があるのかもしれませんが、これも国が定める国民の義務のひとつでしかありません。

なぜか狂犬病予防の「是非の矢面」に立たされることが多い獣医師ではありますが、我々には狂犬病予防法の解釈を変えたり、凌駕するような超法規的なパワーなんてものはそもそも持ち合わせていないということ、狂犬病予防事業獣医師にとっても「義務」であることもぜひご理解いただければと思います。

狂犬病ポスター.JPG
----------------------------------------------

では「狂犬病」とはいったいどういった病気で、なぜ犬の予防接種が必要なのでしょうか?

狂犬病診断・治療の非常に困難なウィルス感染症で、毎年全世界で5万人以上が死亡する重大な人獣共通感染症、人間と動物の間で起こる感染症のひとつです。
日本国内ではすでに撲滅されており過去の感染症となりましたが、戦中戦後の混乱期には数多くの死者を出して猛威を振るいました。現在でも世界中で発生しており、アジア、アフリカ、南米が流行地域になっています。

狂犬病は一旦発症してしまうと有効な治療がなく、その死亡率は限りなく100%という恐ろしい病気です。症状が出るまでの潜伏期間が1~3か月と長いために感染に気付きにくく診断に至らずに、しばらく経過した後に発症して「けいれん」や「マヒ」をはじめとする狂犬病に特有な激しい脳神経症状を起こして、急速に死に至ります。
感染の疑いのある場合には暴露後(ばくろご)ワクチンを何度も接種してその発症を防ぐしかありません。2012年、米国で8歳の少女が奇跡的に狂犬病発症した後に生還したことが大きなニュースになりましたが。こうした例は記録の上で10人に満たない稀有なものです。

ー> 狂犬病から生還した少女―米国

狂犬病インフルエンザなどのように人から人への感染を引き起こさないため、現在の国内での感染症対策では優先度は高くありません。ただし、罹ってしまった場合の死亡率は悪名高いエボラ出血熱ウィルスなど、あらゆるウィルス感染症を上回り、「最も死亡率の高い病気」としてギネスに記載もあるということに驚かれる方は多いのではないのでしょうか。

狂犬病は国内での発生は昭和31年以降は公式には記録がありません。このため日本は数十年の長期にわたって狂犬病清浄国となっておりますが、平成18年にフィリピンより帰国した男性が現地で狂犬病ウイルス感染し、帰国後に発症死亡したことが確認されています。
また、昨年9月に日本と同様に清浄国であったお隣の島国、台湾での発生が認められました。台湾での発生は海外からの侵入ではなく、野生動物(イタチアナグマ)によって長い年月、保持されていた狂犬病ウィルスが突如として犬に感染したものでした。狂犬病ワクチンの不足も手伝って台湾社会を震撼させたのはまだ記憶に新しいニュースでしょう。

----------------------------------------------

多くの方が「狂犬病」と聞いて想像されるイメージはおそらく下のイラストのような犬の姿ではないかと思います。

ところが、こうしたイメージは犬での狂犬病という病気を単純化したものとしては正しくもあるのですが、この病気の本当の理解や予防啓発という意味では誤ったメッセージを発する可能性があります。

pet_kyoukenbyou.png

つまり、狂犬病と聞くと、”犬の病気だから人間には関係ないのでは?”という類の病名による勘違いが多く見受けられるということです。それが転じて「狂犬病が発生していないのに狂犬病予防接種が何でうちの子に必要なの?」と考える方が多くいらっしゃるのでしょう。

狂犬病は人間生活に近い動物である犬が人間への感染の橋渡しをすることが多い伝染病です。日本語で「狂犬」となっているため、犬の病気?であるとか、犬だけが関係するものという誤解がしばしば生じています。「狂犬病」は英語では「Rabies」であって、そこに「犬の病気」という限定的なニュアンスはありません。

狂犬病の実態は人間生活に身近なのみならずなどの伴侶動物牛馬などの家畜げっ歯類などの野生動物を含めた「すべての哺乳類鳥類に幅広く感染を起こし、そうした媒介動物が人間社会に脅威を与える伝染病です。
各国で、どんな動物が狂犬病もしくは、「狂〇〇病」というかたちで脅威となっているのかはそれぞれ随分と異なります。下図をご覧になってみてください。

狂犬病.JPG
※図は厚生労働省のホームページより引用しました。
----------------------------------------------

犬への狂犬病予防接種は人への感染機会の多い犬を予防することで、再び狂犬病が侵入した時に飼い犬の集団免疫によって、その蔓延を阻止するための手段です。

つまり、現在の狂犬病予防法で求められている狂犬病予防接種接種をした犬1頭への狂犬病感染を防ぐことではありません。犬の集団から人間社会への感染経路を絶つことこそがその目的なのです。
こうした仕組みをかたちづくるために、法律が定める義務的予防接種として飼い主さん達に課しているというものです。

「高齢」、「かわいそう」、「お金をかけたくない」などの個人的理由で予防接種をしないという選択権は飼い主さんにはありません。いわば罰則を伴う社会責任のひとつと言えるでしょう。

我が国で狂犬病予防が犬のみに義務付けられているのは過去に蔓延した狂犬病感染経路や、狂犬病予防法によりそれを根絶した実績があり、それが理にかなっているためです。
例えば、発生国の米国では犬だけではなく猫に対して接種義務があったり清浄国のイギリスのように義務はない代わりに、感染を疑う動物の徹底排除とする国もあるなど、狂犬病を蔓延させないための手段やルールは国により異なっており、優劣のつく問題ではありません。

狂犬病予防接種を義務化していない西欧諸国や予防そのものを禁止している豪州を例に出して、日本の予防行政の「後進性」が動物愛護と絡めてしばしばやり玉に上がりますが、国としてのリスク対応はその国がどの点を厳格にして狂犬病のリスクに向き合うと決めたかということの違いでしかありません。目的は一緒ですし、これは動物愛護とも無関係なことです。

日本は狂犬病ワクチンによる抑止を選んでいますが、これは狂犬病の侵入の緊急時に「ワクチン済みの犬の生存を許す」という暗黙の了解でもあるでしょう。
一方、義務化をしていない西欧諸国に広がった場合に、合理主義の彼の国々ではその対応がどのようなものになるのか想像してみてもいいかもしれません。
時折、世間を騒がす鳥インフルエンザにはもちろんワクチンは使いません。その際に病気発症を問わず動物達がどのように処遇されるのか?、という問いに対する答えは皆様の記憶に新しいのではないかと思いますが、いかがでしょうか。。。

----------------------------------------------

人や動物の国際間の行き来がより頻度を増した現在では、国内への狂犬病の侵入の恐れはむしろ増大しているのが現状です。

わが国では海外から見境なく輸入される様々な種類の愛玩動物に対して、その検疫体制は決して充分とはいえるものではありません。むしろ、狂犬病が予想外の動物や経路から侵入することを常に想定しなければならないのが現状です。
もしかしたら既に国内に侵入して野生動物の間で犬や人間への感染の機会をうかがっている状態かもしれないのです。

さらに、日本国内では狂犬病ワクチン接種率が年々低下して、その実態はおおよそ4割を下回っています。これは国連世界保健機関WHO)が勧告している狂犬病の流行を防ぐために最低限必要とされる接種率70%を大きく下回る予防水準です。

狂犬病は撲滅された過去の病気だから、もう日本では発生しないだろうという楽観的な根拠は全くありません。

犬は太古の昔から、時代とともにそのかたちを変えながら常に人間の最良の友であるとよく言われます。しかし、その一方で、時には狂犬病という恐ろしい感染症をもたらす危険な隣人にもなり得る存在だということを私たちは忘れるべきではないでしょう。

最後に下の図をご覧になってください。赤とピンクで塗られた地域は狂犬病が現在発生し続けている地域です。それと比べると日本をはじめとする青い色の狂犬病清浄地域はわずかでしかないという現実をご理解いただき、狂犬病予防の重要性をあらためて考えてみられてはいかがでしょうか。
07a.gif
※図は厚生労働省のホームページより引用しました。

----------------------------------------------

文責:あいむ動物病院 西船橋 病院長 井田 龍

"ハチ"の一刺し ~ 蜂毒と犬

だいぶ暖かい日が増えてまいりました。天気のいい日には愛犬とちょっと外出という機会もずいぶんと増えてくるのではないでしょうか。わんちゃんにとっては公園や草地で自然と戯れるまたとない季節ですが、それは同時に動物たちに病害性を及ぼす昆虫類にとっても同じように、その活動が活発になってくる時期でもあります。

動物病院で治療対象となるようなノミマダニの活動も然りで、例年5〜6月以降は犬猫ともにかなり多く発見されるようになってまいります。我が千葉県では「G.W.にちょっとマザー牧場に遊びに行ってきたよ。」なんていうワンちゃんたちには、ありがたくないお土産がついてくることも多いものです。

この時期はによる吸血も増えてフィラリア予防が始まったり、ノミマダニなどの吸血昆虫による病害も生じやすくなりますから、動物病院でこうした予防の案内を受けることも多いのではないでしょうか。
季節柄、ノミ・ダニ予防をしましょう、という類の話題を持ち出す誘惑に駆られますが、それはまたの機会にいたします。。。
前置きがだいぶ長くなってしまいました。今回はテーマは刺されると痛い蜂とその毒にまつわるお話です。

dog-554127_640.jpg

都市化や住居の気密化、高層化に伴って毒を持つ昆虫などの生き物が私たちの日常に入り込むことはずいぶんと少なくなってまいりました。ところが、人間やワンコの生活圏のちょっと外側に踏み出せば「蜂」「毛虫」「ムカデ」をはじめ、動物や人間に危害を与える可能性がある生き物はまだまだ多く潜んでいます。

ところで、「生物毒」という言葉を耳にされたことがあるでしょうか?読んで字のごとくですが「生物のつくりだす毒」とは防御や捕食のために進化させてきた、種の存続のために必須の化学物質のことです。
その生物毒のひとつ、蛇、サソリ、フグ毒など多岐にわたる動物毒(zootoxins)は、多くの植物やキノコなどがつくりだす植物毒(phytotoxin)ボツリヌス菌毒素など細菌やカビの作り出す微生物毒(bacteriotoxin)と並んで自然界がつくりだす「3種の毒」のひとつです。

やや横道に逸れますが冒頭のノミ・ダニ等の吸血昆虫も血が固まらないようにする「毒」を使って血液を寸借して、その毒による「痒み」というお土産を残していきますから、広い意味ではこういった生物毒を持っているともいえるかもしれません。

都市部でも人間や動物に危害を生じる動物毒のうち「昆虫の毒」植物毒と並んでよく遭遇するものです。当院周辺の生活圏でを持つ昆虫はおもに毛虫ムカデ類などですが、このうち最も多く遭遇するのが「」による犬への被害です。

下の顕微鏡写真は散歩中に突然、”ギャイン!!!”と叫んでそのまま足を着かなくなってしまったワンちゃんの肉球に刺さっていた「何か」を取り出したものです。

IMG_1755.JPG

この「エイリアンの鎧」みたいなものは、ミツバチの「針」とその根元の構造と思われます。写真では右の鋭利な「針」とその根元の構造をかたちづくる、毒液を容れる毒嚢(どくのう)らしき構造が見えますが、写真では毒嚢は既に空のようではっきり確認ができません。

ところで、蜂には動物や人間を刺すハチとそうでない蜂がいるのはご存知でしょうか?「刺す蜂」というのはミツバチアシナガバチスズメバチなどの細腰亜目に分類される蜂だけだそうです。

そもそも、蜂が持つ「針」は産卵管が変化したものといわれています。つまり「刺さない蜂」は蜂のより原始的な姿であり、その針は産卵管として使われ動物を刺すことはありません。
刺される側からみるとケシカランことですが、生命を育むための装置が進化とともに次第に防御の武器に、さらにスズメバチ至ってはその破壊力はまさに兵器級の域に達していますから生物進化のダイナミズムには驚きを禁じ得ません。

bee-1248742_640.jpg

ミツバチは針の構造上、いったん刺してしまうと、針が抜けるときにはなんと「内臓ごとちぎれて」しまいます。つまり、ミツバチにとっては人間や犬を刺すということは、即死ぬことを意味するため、かなり追い詰められた状況でしか攻撃しません。つまり使ったら自らも死ぬという最終兵器による抑止力です。

こうして見ると先ほどの写真ではミツバチのお腹がちぎれているようにも見え、何やらかわいそうな気持ちになりますが、こうして針という「蜂に刺されたという証拠」を残していきますので、ワンコに何が起きたのかを予想することができます。写真の針は肉球の中央部に刺さっていましたから、おそらくワンコにいきなり踏んづけられて、身動きが取れなくなったミツバチは生命の危機を感じたのでしょう。。。。

下記リンクの動画で毒嚢の驚くべき機能を知ることができます。ご覧になってみてください。
ー> ミツバチの針と毒嚢の動き(動画)

----------------------------------------------

当然ですが「刺す蜂」は毒を持っています。蜂に刺されると激しい痛みを起こして、刺された場所が熱を帯びて腫れ上がります。こういった体の反応は短時間のうちに生じる激しい「アレルギー反応」とそれに続く患部の「組織破壊」の結果であると考えると分かりやすいと思います。

蜂が持つ昆虫毒の特徴は多種類のアミン類低分子ペプチド類、たんぱく分解酵素類など、まるでたくさんの化学物質をごちゃ混ぜにした「毒のミックスジュース」のような液体です。

アミン類にはヒスタミンセロトニンドーパミンアドレナリンノルアドレナリンアセチルコリンなど「刺される側の動物の体の調節機能」をつかさどる生理活性物質そのものが多数含まれており、激しいアレルギー炎症痛みを引き起こしたり、神経筋肉心拍血圧など体の重要な調節機能に悪影響してさまざまな有害な反応を引き起こします。

また、これらに追い打ちをかけるように、組織を分解する酵素などの多種類のタンパクペプチドが周囲の組織赤血球などの破壊を引き起し、医学的な意味でよくもここまでという情け容赦のないダメージを与えます。さらに、オオスズメバチに至っては神経麻痺させるような神経毒まで入っているという徹底ぶりです。

syringe-417786_640.jpg

では、蜂に刺されてしまったらご自宅での対処はどうすればよいのでしょうか?

できる限り早く毒嚢が付着している針を取り去らなければなりませんが、無理に取ろうとすると逆に毒嚢に満たされている毒液を体内に押し込んでしまうため注意が必要です。その後に患部を絞って冷たい流水で洗い流し、冷やすことで症状を軽くすることができるかもしれません。

当然のことながら、強い痛みを伴っているため自宅での処置は危険を伴ったり、難しいことも多いものです。また、強いアレルギー反応に対してはなすすべがありませんから、あまり無理せずに動物病院に来院することを優先させていただいた方がよろしいでしょう。

動物病院での治療はまず、残存している「針」があれば可能な限り安全に取り除き、患部を洗浄して冷やすなどの処置を手順通り進めます。治療の基本は毒によって急速に引き起こされるアレルギー反応をはじめとするさまざまな有害反応をできるだけ抑え込むことです。こうしたさまざまな対症療法はきるだけ早期に行う必要があります。

副腎皮質ステロイドホルモン製剤抗ヒスタミン薬鎮痛薬などの薬物を使用して毒物そのものやアレルギー反応による「脹れ」や「痛み」などをできるだけ軽減することが重要な治療です。症状が強い場合や、非常に強いアレルギー反応アナフィラキシーショックにまで波及するような場合には血液循環血圧調節などの体の調節機能どが失われ、命に関わるようなショック状態を起こすことがあり得るため、その兆候を注意深く捉える必要があります。

幸いなことに、小型犬でもミツバチ一匹程度の毒量では命に関わるような症状を示すことはあまりありませんが、過去にも蜂に刺されている場合には強いアレルギー反応の可能性があるため要注意です。また、複数箇所を刺された場合や、スズメバチなど大型の蜂はもちろん中型のアシナガバチなどによるものでも体が小さなワンちゃんでは特に注意が必要です。

お散歩の楽しい季節ではありますが、お花畑や小さい花がたくさんさいている草むらではワンちゃんの足元でミツバチが蜜を吸っていますから、充分にご注意を!

bee-170551_640.jpg

----------------------------------------------

文責:あいむ動物病院西船橋 病院長 井田 龍

"おやつ"に注意。食道異物・閉塞

まずはじめに。。。

わんちゃん、ねこちゃんと生活する上で、異物誤飲誤食というのは飼い主さんが最も注意されているであろうことのひとつですが、それでも多くの方が、一度や二度は”ヒヤリ”としたご経験をお持ちのことと思います。異物の誤飲にまつわる問題は特に救急医療の現場でその発生が多くみられるものです。
何かの拍子に飲みこんでしまう「おもちゃ」、日常生活に溢れる「あらゆるモノ」が引き起こす緊急事態は、一体どんな仕組みで起こるのか?なかなか実感がわきにくいかもしれません。その問題の多くは誤飲された異物胃内異物となり、その異物または一部がさらに小腸を通過する際に閉塞を生じて、様々な時間経過を経て急性発症するものです。
発症までの時間経過としては誤飲から数日以内のことが多いようですが数ヶ月、場合によっては何年も前に飲み込んだ胃の異物が原因になることもあります。

---------------------------------------------

腸閉塞はその診断治療緊急性はもちろん高く、異物誤飲による消化管閉塞での発生件数では群を抜いていますが、同じかそれ以上に緊急性のある消化管閉塞が他にも存在します。そのひとつが「食道内の異物」による急性の食道閉塞です。

食道異物とはよく見られる胃腸異物と比較すると、どのような特徴と注意点があるのでしょうか?またそれが引き起こす食道閉塞をどのように診断して、いかに治療していくか?

今回のテーマは普段はあまり目立たない消化器である食道の緊急事態に関して、食道閉塞のさまざまな実例を順を追ってご説明したいとおもいます。。。

----------------------------------------------

食道閉塞の原因となる異物は、本来は充分に消化が可能な家庭内の食品、食材や残飯であったり、犬用ガムやジャーキーなどの市販の「おやつ」など、食べものによって生じることが多いのが特徴です。これは腸閉塞胃内異物で多くみられる、身の回りの生活雑貨やゴミのような類の異物などという特徴とはやや異なる特徴です。理由としておやつなどを取られまいとして慌てて飲みこんだりするなどがきっかけになることが多いことが背景があると考えられます。

食道閉塞ではその「原因」と「発見」「症状」がほぼ同時に連続的に起こることが多く、飼い主さんの目の前で起こりやすいため、その緊急性を理解しやすい救急疾患です。
異物を飲みこんでからの発症が予想できない腸閉塞とは異なり、食道閉塞の場合には直後、だいたい数秒から数分以内で、流涎(ヨダレ)や苦悶を伴う嘔気がみられます。重度なものでは気道圧迫による呼吸困難を起こすこともあり、中には生命の危機につながる問題を引き起こしかねないものもあります。

----------------------------------------------

食道内異物はつまった場所とその大きさ、異物の食道内での移動しやすさによって処置内容が変わります。異物閉塞が起こる部位は大きく分けて、に近い上流の頚部食道(胸腔外)と胃に近い下流の胸部食道(胸腔内)に分かれます。胸部食道での閉塞は胃の入り口、噴門部の手前に最もつまりやすく、心臓の上の心基底部(しんきていぶ)手前の食道閉塞がそれに続きます。

下図は食道の大凡の位置関係と、食道閉塞を起こしやすい場所を示しました。左が頭方向、喉から胸に至り胃の入り口までの食道レントゲン写真上に合わせてみました。食べ物は左から右に走るオレンジ色の太い線の食道を通ります。3か所の黄色星印が異物閉塞を起こしやすい場所です。
異物が詰まりやすい場所は食道が構造的にわずかに狭くなっている部位のやや手前に一致しています。

1365_7072_20140828190601.0.jpg

食道ではどのような異物であれ、できるだけ速やかに除去する必要がありますが、目立った症状がみられる頚部食道と比べると胸部食道は症状がむしろ弱いことも多く、食道閉塞が見逃されやすいこともあるため注意が必要です。

食道異物による内側からの圧迫に弱くその修復能力も高くありません。食道の損傷は食道狭窄(きょうさく)や食道拡張逆流性食道炎、麻痺、嚥下困難など機能的ものも含めて深刻な後遺症を残す可能性があります。
特に胸部食道では発見が遅れたために、食道穿孔(食道に穴が開いてしまうこと)が起きた場合には心臓などの重要臓器を容れている胸の中で激しい縦隔洞炎を生じ、その治療と合併症には死と隣り合わせのリスクを背う可能性があります。

治療異物消化可能なもので、食道内を移動できるのであれば、内視鏡(左下写真)を用いて速やかに胃内に落とすことが基本的な対処法です。頚部食道の上流にある異物や「胃で消化できないもの」、胸部食道に損傷を与える恐れのあるものであれば、直接食道を切開して摘出したり、内視鏡下で様々な異物摘出鉗子(右下写真)などを用いてそのまま口から取り出することもあります。

337759_328100257241116_1096507671_o[1].jpg DSC_8395.JPG


に落とした食道の異物はそれが胃で消化されるものであれば経過観察をしますが、そのまま胃内に留まったり、後に腸閉塞の危険を起こす恐れがある場合には、胃切開を行って摘出することもあります。

飲みこんだ異物が大きい場合には、直ちに上流の頸部食道でつまってしまうことがあります。こういった場合には激しい苦悶をともなう嘔気呼吸困難などで緊急化していますから、直ちに食道切開を行って摘出する必要があるかもしれません。

つまり食道内異物はそのすべてが緊急性の高い患者さんであって1日たりとも様子見ができない、時として数分を争う救急疾患であるというのが胃腸などの消化管内異物とは異なる点です。

----------------------------------------------

【ケース1】 胸部食道、胃の噴門部手前の異物 【リンゴ】

”食卓の上の切った「リンゴ」を丸呑みして、気持ち悪そうにじっとしている”、という訴えで来院した小型犬のケースです。診察台の上では何回かの嘔気が見られましたが、吐しゃ物は出ずに確かに気持ち悪そうしています。

こういった場合、まず、レントゲン検査を行って異物の見当をつけます。下の胸部レントゲン写真で黄色い矢印に挟まれた部分が少し白っぽく見えるのがお分かりでしょうか?実は画像診断ではこういった特徴ですぐに胸部食道異物を疑うことができます。

1123_7587_20141123112315.0.jpg

下の写真が食道バリウム造影検査を行って確定診断を行った写真です。同じ部位に造影剤によって明らかになった形のはっきりしない異物造影されています。
リンゴ程度のカタマリがいかにレントゲン写真に映り難いのかがお分かりになりますでしょうか?

1123_7592_20141123125751.0.jpg

下の写真が当日、緊急の内視鏡検査を行った胸部食道の異物です。異物の入り口の噴門部を越えることができず、噴門部の手前で引っかかっています。
”リンゴを飲み込んだ”、という飼い主さんの情報から、この塊が消化可能なものという判断して、内視鏡胃内異物を落として終了いたしました。

DSC_4017.JPG

 

----------------------------------------------

【ケース2】 胸部食道、胃の噴門部手前の異物 【牛皮ガム】

”飼い主さんに取り上げられそうになった「牛皮ガム」を丸呑みしてしまった”、という訴えで来院した小型犬です。気持ち悪そうにしていて、吐いているが吐しゃ物が出ないということでした。診察室ではやはり時折震えて、吐くようなしぐさをしていますが何も出ません。

下写真は胸部レントゲン検査の画像です。【ケース1】と同様に黄色の矢印の間にわずかに白いエリアが見られます。

1655_9165_20150614155449.0.jpg

確定診断のための造影レントゲン写真は下のようになりました。バリウムの侵入が少なくやや見にくいですが、四辺形らしい形のはっきりしない食道内異物が確認できます。

【ケース1】の異物よりも造影剤が入らないため見えにくくなっていますが、これは異物食道粘膜と密着しているということを意味します。その意味は内視鏡検査の際に明らかになります。

1655_9170_20150614193123.0.jpg

次の写真が当日、緊急で行った内視鏡検査の様子です。唾液分泌物を吸い込んで膨張した「牛皮ガム」噴門部手前の胸部食道の出口で食道閉塞を起こしておりました。この部位は【ケース1】と同様に胸部食道で最も閉塞を起こしやすい場所です。

消化可能異物ですから、内視鏡によって胃内へ落とすことを試みましたが、異物は角張って食道粘膜に食い込んでおり、さらに唾液等でベタベタになった牛皮ガムが食道粘膜と密着してに落とすことはおろか動かすことさえできませんでした。最終的に周囲に潤滑剤を注入し、異物粘膜から浮かせてようやく胃内へ落とすことができました。

DSC_5896.JPG

ところで、上の写真のように、このように大きな牛皮ガムでもレントゲン写真にはっきりと写らないということがお分かりになりますでしょうか?

----------------------------------------------

【ケース3】 頚部食道咽頭部から食道に達している異物 【犬用ジャーキー】

”「ジャーキー」を慌てて食べた後、何かを吐こうとして止まらない”、という訴えの小型犬です。診察室ではかなり嘔気が強く、盛んに何かを吐き出そうというしぐさが見られました。腹部、胸部レントゲン写真を撮影しましたが、特に異常は見つかりませんでした。

”ジャーキーを食べた直後”ということと、診察室での様子からやはり食道の異物が疑い、頸部レントゲン検査に加えて、確定診断のためにバリウムによる食道造影を実施したのが下写真です
頸部レントゲンで、「異物が存在する」はずの黄色の丸で囲んだエリアには異常は認められません。

1695_9450_20150724111059.0.jpg

ここでバリウム造影検査を行ったものが下写真です。上の写真黄色のサークル内でほぼ見えない異物造影剤で浮かび上がっているのがお分かりだと思います。異物咽頭のすぐ下から食道に入って数センチ以内の場所に存在しているようです。

1695_9451_20150724111503.0.jpg

当日、緊急で実施した内視鏡検査が左下写真です。下の方に見える管状のものは全身麻酔時に人工呼吸装置とつながってい呼吸管理用の気管チューブです。チューブの入っている穴が気管の入り口、その上、9時から3時方向に見えるものが食道内異物、ジャーキーの塊のようです。

見つかった異物食道上流で口に近かったため、そのままに落とさず分割して摘出いたしました。異物の一部の写真が右下です。唾液をまみれて表面は柔らかくなっておりますが、芯が硬く、引っかかりやすい形状をしており、食道入り口に「フック」のように一部が引っかかって、その奥数センチにまで達していました。

DSC_5995.JPG DSC_6001.JPG

ところでこのジャーキーですが、ここまで大きな異物がレントゲン写真には写らないのです。

----------------------------------------------

【ケース4】 頚部食道、咽頭部から食道に達している異物 【おやつ用の牛骨】

”牛骨のおやつを食べてから様子が変です。”、という中型犬が来院いたしました。診察室内では嘔気を繰り返してとても苦しそうです。また、頸部触診を嫌がり、おとなしく診察することができません。
飼い主さんの訴えから、やはり上部消化管異物、おそらく骨だろうと考えて胸部腹部そして頚部レントゲン写真を撮影いたしました。

頚部レントゲン写真には、わんちゃんの骨格と違う「骨のレントゲン像」が見えます。(下写真の黄色矢印)、レントゲン写真にて異物の確認ができましたので造影検査は行わず、当日に内視鏡により摘出いたしました。

1365_7073_20140828190941.0.jpg

下写真のような、かじられて両端がギザギザとなった「おやつの牛骨」食道のすぐまさに入り口の粘膜に左右に突っ張るように引っかかっておりました。左下写真、青矢印の先が摘出中の「おやつ」です。周りの粘膜がかなり腫れており、気道の一部を閉塞しています。
口からの距離も近く、鋭利な異物食道から胃に落とすわけにはいきませんのでからの摘出となりました。右下の写真が摘出された牛骨(あばらの骨)のおやつです。このように骨のような硬い異物になるとレントゲンに写りやすくなってきます。

DSC_3116.JPG DSC_3136.JPG

 

----------------------------------------------

【ケース5】 胸部食道、心基底部(心臓の上)手前の異物 【デンタルボーン】

”デンタルボーンを飲みこんで苦しそうにしている。”、という小型犬です。診察室では元気に歩き回るものの、時折、嘔気で何かを出そうとしていますが出ません。このわんちゃんは日頃から歯の手入れのために「デンタルボーン」を常食にしているようです。
飼い主さんからの申告により、食道内異物はほぼ確実ですのでレントゲン撮影胸部腹部で行いました。

下の写真が胸部レントゲン写真です。黄色い矢印に挟まれた「白く細長い異物が見えると思いますこの場所は胸部食道心基底部(心臓の上)に近い部分で、食道閉塞を起こしやすい場所です。写真ではまた。食道閉塞に伴って飲み込んだ空気によって食道拡張がみられています。(右の赤い矢印の間)

923_4202_20130502154035.0 - コピー (2).jpg

ふつう、食道レントゲン写真に写らないのですが、このわんちゃん、かなり苦しかったらしく大量の空気を飲んでおり、食道に空気が入っています。このため、飲みこんだ空気「造影剤」となって、異物「空気造影」されており、幸いにもレントゲン写真異物の存在が明らかになりました。

食道の状況を見るためにバリウム造影を行ったのが右下の写真です。造影剤異物の周囲を速やかに通り抜けており、異物は食道に密着している状態ではない様子ですが、どうも両端で食道に引っかかっているような感じではないでしょうか。右下画像が内視鏡画像です。この異物消化可能ですので、当日に胃内へ落として無事に終了いたしました。

923_4205_20130502155819.0.jpg shokudou.JPG

ところで、上の5例のリンゴ、牛皮ガム、ジャーキー、牛骨、デンタルボーンなどの見た目に明らかな異物のうち、牛骨以外の異物が意外にレントゲン写真に写りにくいということがお分かりになりますでしょうか?(5例目のデンタルボーンはたまたま空気で造影されていたもので、本来は見えにくい異物です。)

これは、食道内異物 だけでなく、での消化管内異物診断を行う上でとても重要な点です。レントゲン写真に写らない「見えない異物」による消化管閉塞をどう診断するか?これは我々獣医師にとっても、常に直面する悩み深い問題なのです。

----------------------------------------------

まとめです。。。

下の写真をご覧になってみてください。この写真は食道の下流域、胸部食道からの入り口である噴門部(中央部のすぼまっているところ)を見ている内視鏡の画像です。
実はこの写真は胸部食道に詰まった異物を摘出した後のものです。異物は「牛皮のガム」でした。この写真は閉塞が起きてから、半日程度経過したところで内視鏡検査を行ったものです。

この画像は食道が圧迫に対していかに弱い臓器なのかを示す画像としてご覧ください。

下の写真で黄色矢印の先がへこんで周囲の粘膜出血しています、中央部は「牛皮の尖った部分」に圧迫されて潰瘍を作っており、食道穿孔の危険性がありました。また、緑矢印の先に広い範囲で赤黒く粘膜面の変色が見られます、こちらも圧迫によって粘膜面うっ血が生じており、食道粘膜にダメージを起こしているのが分かります。

DSC_4025.JPG

実はこのわんちゃんの飼い主さんは異物誤飲には気づいておらず、来院の理由は”嘔吐して食欲がない”というものでした。もし、当日に病院に来院できなければ、もしくは診断できずに様子を見てしまえば、取り返しのつかない問題を生じていたでしょう。診察室でも嘔気が見られませんでした。

冒頭で書いた通りですが、胸部食道穿孔(せんこう)が起こると周囲の縦隔洞を巻き込む激しい炎症を起こします。治療には開胸手術を行い、最終的には食道を修復しなければなりません。そういった手術の難易度とリスクは格段に高く、死亡率の高い胃腸管穿孔をも上回るものとなります。

目の前でワンちゃんが喜んで食べている「おやつ」によって、わずか数日でそこまでの問題になるなどという危険性を想像することは普通はできないでしょう。
食道内異物は、もしも飼い主さんが異常に気付かず様子を見てしまったり、初診で診断できなければ、治療の可能性がそこで断たれてしまう可能性があります。つまり、診察室内で躊躇なく内視鏡検査をするかどうかという選択枝まで到達しなければならないことを意味しますが、これは結構大変なことなのです。

----------------------------------------------

どうしたら、食道内異物による緊急事態を防ぐことができるでしょうか?
この問題はトイ種などの小型犬に頻発いたします。そもそも小型犬ではこういった、原因となりやすいおやつ類を与えないというのが一番安全なことです。やむを得ず与える場合には小さく切って与えたり、その素材をよく選ぶといった配慮が必要と思います。

ある種の「おやつ」や「ガム」が、なぜ、食道異物として多くみられるのか?その素材には下に列挙したような特徴や共通点があるはずです。常食とされている方はこれらの点にくれぐれもご注意なさって下さい。

〇唾液など水分を吸収して「膨張」して、流れにくくなり食道を閉塞しやすい
〇同様に「表面がベタベタ」になって付着しやすくなり、食道内での移動を妨げる
〇素材が角張っていたり突起物や付属物がある等、食道内での移動を妨げる
〇骨そのもののように、食道を損傷したり、鋭利で引っかかりやすい
〇慌てて丸飲みしやすい大きさ、形状や極端に嗜好性を誘引する

----------------------------------------------

最後に。。。以下の二枚の写真をご覧になってみてください。
この2枚の写真は胸部食道のほぼ同じ場所を撮影したものです。左写真が正常な食道、右が食道損傷から生じた食道狭窄による重度慢性食道炎内視鏡検査のものです。とても同じ場所とは思えないこの2枚写真が食道に起きてしまった変化を物語っています。
緑矢印は左写真の正常と、右写真の狭窄して狭くなってしまった食道内腔を示しています。食事を飲み込むことはもちろん流動食でさえ、少しづつしかこの穴を通ることはできないのです。右写真のわんちゃんの食道はもう治ることはありません。

DSC_3125.JPG DSC_1758.JPG

食道内異物による食道閉塞は、もし、一命をとりとめてもこういった重大な後遺症を引きおこす可能性があります。飼い主さんの皆様、わんちゃんのおやつには充分にご注意なさって下さい。

----------------------------------------------

文責:あいむ動物病院西船橋 病院長 井田 龍

1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9

診療時間

診療時間

年中無休
平日は朝8時から診療します
※年末年始・お盆は診療時間が短縮になります。
※水曜日、13時以降は手術・処置のため休診です。

047-402-3700(予約制)

※ご来院前にご予約をお願いしております。
※緊急の場合でもご来院前にご連絡ださい。

>メールでのご予約、お問い合わせについて

千葉県船橋市西船1-19-28 朝日ビル1階
無料駐車場13台
駐輪場9台併設
病院前に6台と隣接する7台の駐車スペースがあります

駐車場

あいむ動物病院 西船橋フェイスブック

あいむ動物病院 西船橋スタッフ

過去のブログ